98 ロマンティック願って
次の更新は3/2(木)です。
「ねぇ……あの娘って……」
「うん……」
「噂の一年生だよな」
「間違いないよね」
等々、周りのヒソヒソ話を背景にお地蔵さんの目の前までたどり着く。
ここまで言われたらさすがになぁ……。
「なあ、気にならないか?」
「え? 何が?」
「だから、皆んなが明らかに里沙のこと話してるだろう?」
「あー……。もう慣れたわ」
なぜか俺たちもヒソヒソと話す。
「慣れたって……」
「だって、廊下を歩くだけで注目を浴びるし、色々言われるもの」
「でも、今回のは……」
「どういうこと?」
「いや、何でもない……」
余計なことは言わないでおくか。
それにしても、里沙の天然っぷりは健在だ。
お前の中では願掛けに来ただけかもしれないが、周りにとっては恋愛成就にやって来たと思われているわけで。
そもそもどこでこの七不思議を聞いてきたのだろうか。
きっと、倉持あたりが面白い方向に改変して伝えたに違いない。
「ほら……願いなさい」
「あ……ああ」
里沙はお地蔵さんに向かって手を合わせ、目を閉じた。
俺も習って同じ動作をする。
勢いだけでここまで来たわけだが、何を願おうか。
そうだな……。ここは、本来の趣旨通り恋愛成就でも願っておこう。
俺は頭の中で、お地蔵さんに向かって語りかけつつお祈りをした。
後日お供え物でも持ってくるとしよう。こんな寂しいところで、ただ一人、願い事を叶え続けてきたのだから。
それぐらいしても罰は当たらないだろう。
俺が目を開けると、里沙も願い事を終えていた。
こちらを見やると、爽やかに微笑んでみせた。
「ふふ。何を願ったの?」
「教えない」
「教えなさいよ」
「そういうお前は何を願ったんだ?」
「……。内緒」
「ほら」
「私のことはいいの! 宏介は何を願ったの?」
「だから、願い事は人に話したら叶わないぞ」
「そうなの!?」
「当たり前だろ……」
まるで純粋無垢で世の中の闇を知らない子供と話している気分だ。
腹黒いのか、腹黒くないのかよく分からない。まあ、ピュアだと信じたいが。
「でも、いつか教えてやるよ」
「本当? じゃあ私もそう約束する」
そう言うと、里沙は小指を差し出してきた。
出た。久々の指切り。里沙の中では、それさえすれば約束は必ず守られるらしい。
「早く」
俺は里沙に促され、指切りをした。
そして、里沙は相変わらずの満足げな表情を浮かべていた。
「目的も果たしたし、そろそろ戻るか」
「そうね……。まだ名残惜しいけど、戻るわ」
夕方の体育館裏、別に世界から取り残されているわけではないが、別の時間が流れているようで、少し切ない。
急がなくたっていいのに、その雰囲気が俺たちを急かす。
黄昏の焦燥感。不思議な魅力がある。
お地蔵さんを尻目に体育館裏から去ると、玄関に行き靴を履き替え、Dルームへと向かった。
まだ皆んないるかな。ライブが終わってから、結構経ってるはず。
戻って誰もいなかったらショックだ。
Dルームの前まで着き、扉に手をかけると、簡単に開いた。
良かった、鍵はかかってない。
しかし、俺たちの目の前に広がる光景は、誰もいない部屋だった。
あれ? タイミングが悪かったか。それとも、帰ってしまったのか。
いや、鍵を開けっ放しにするわけがない。
とりあえず、待ってみるとしますか。
続く




