97 彼をヒッパレ
次の更新は2/27(火)です。
テントの中で隠れてしばらく経った頃、入り口から外の様子を覗いてみた。
人通りは、さすがに減っており、それなりに見通しが良く誰がいるかも良く分かる。
今の所、知っている人は誰もいない。勇気を出し、外に出てみよう。
「ちょっと見てくる」
「大丈夫なの?」
「きっと大丈夫だ」
俺は里沙にそう告げると、まずは屋台の並ぶ通りを一周した。
SF研究部は誰もいない。山内たちもいない。イカを頬張る先輩もいない。邪魔と言ったら嫌な言い方だが、邪魔者は誰もいない。
もう大丈夫だな。俺は、里沙を呼びにテントまで戻った。
テントに入ると、すぐさま何かにぶつかった。確認するまでもなく、里沙だと分かった。
彼女は、よろめき、その場にへたり込んでしまった。
「痛い……。何でぶつかるのよ」
「すまん。ってか入った瞬間ぶつかったんだが?」
「ちょうど外を見ようと思ったら、宏介が入ってきたんでしょ」
「お互いタイミングが悪かったな」
「そうね……」
里沙は、右手を俺に向かって差し出してきた。
「何だ?」
「察しが悪いわね。起こして」
自分で起きあがれると思うが、ここは差し出すのが紳士ということか。
差し出された手を握ると、思ってもいない方向に力が加わり、そのまま引っ張られた。
なぜだ。なぜ、里沙が力を入れて、俺を引っ張るんだ。
俺は、不意打ちに引っかかり、そのまま里沙の上に覆い被さってしまった。
「ちょっ……! 何をするんだ!?」
「……」
なぜか俺を引っ張った張本人も驚き、言葉を失っている。
「ごめん……」
里沙は、一言だけ謝ると、また黙り込んだ。
俺は彼女に密着しており、体温や体の柔らかさが直に伝わってくるほどだった。
それと、場所のせいなのか知らないが、胸の鼓動の高鳴りをいつもより感じた。里沙に聞こえてしまうのではないだろうか。
このままでは、気がおかしくなりそうだ。早く体勢を直さないと。だが、力が抜ける。
「ねぇ、こんなところ誰かに見られたら……どうする……?」
「どうするも何も、見られたらまずいだろ」
「そうね……。そろそろ向かわない?」
「その前に、起き上がらないとな」
まず俺が立ち上がり、今度こそ里沙の手を引いた。
2人とも少しよろめきながら、制服についた汚れを払う。
「さぁ、行くか!」
「いよいよね」
気合いを入れ直し、テントから出ると、体育館裏に向かった。
さて、いよいよ目的地が眼前に迫っているわけだが、先から男女のペアと何組かとすれ違ったのは、同志たちだと思う。
体育館裏のある一点に人が集まっており、そこにお地蔵さんがあることは一目瞭然だった。
「あそこだな」
「そうね。思ったよりいるわね」
「皆んな知ってるもんだな」
「知らない方が珍しいんじゃない?」
どうも俺は、そういうのに鈍感らしい。七不思議とかオカルトチックなものは、あまり信じない。
否定をするわけではないが、俺が現実主義なだけだろうか。
だが、妄想は好きだ。人の考えることに、制限はない。
「私たちも早速お願い事をするわよ」
「おう。近くに行こうか」
俺と里沙がお地蔵さんの近くまで寄ると、そこに居た人たちは皆んな俺たちの方を驚いた様子で見てきた。
里沙は特に気にしていないみたいだが、周りは突然の高校一の美少女襲来に釘付けだった。
続く




