96 止まれない、焦れったい
次の更新は2/25(日)です。
早くこの場から離れねば、SF研究部の皆んなと合流してしまうかもしれない。
「すまん。この後、すぐ用事があるから感想は家でな!」
「そっか。頑張ってね!」
「頑張る……?」
「じゃあ、帰るね。里沙姉と上手くいったかは、帰ったらゆっくり聞かして」
ドキっ! なぜこの後のことを……?
何て答えようか迷っていると、亜子は俺の肩に手を置いてきた。
「あはは。図星だったね。でも、ほら、しっかりして! 告白は男らしさが大切だよ」
「そういうことか……。言っておくが、告白はしないぞ。何か大きな勘違いをしているみたいだけど……」
「またまた〜。今更私に隠すことないじゃん」
「本当にちょっと用事があるだけだから」
「ふーん。とにかく家で色々と聞かせてよ。じゃあね、今度こそ帰る」
「気をつけて帰れよ」
亜子が見えなくなるまで、見送ったが、途中で何度もこちらを振り向いた。
きっと里沙がどこからか現れないだろうか気になったのであろう。
残念ながら、ここで合流はしない。
それにしても、亜子は何でもお見通しですか。占い師の才能があるのではないだろうか。
我が妹ながら底力は計り知れないぜ。
おっと、ボサボサしてると作戦は失敗しそうだ。早く集合場所に向かうとしよう。
俺が足を進めようとした瞬間、秋葉の声が聞こえた。
「宏くんと関野さん、はぐれちゃったね……」
「どこ行ったのかな? とりあえずDルームに戻れば、先に戻ってるかもしれないね」
秋葉と柚子先輩の声が聞こえる。
いる! 後ろの至近距離にいる!
人混みも緩和されているため、このままでは確実に捕まってしまう。
もう、進むしかない!
俺は、今世紀最大の抜け足で渡り廊下を早歩きした。
「あれ? 宏くんあそこにいませんか?」
秋葉の声が聞こえたようだが、気にするな。玄関まで直行だ。
渡り廊下に繋がる校舎への入り口を跨ぐと、すぐに玄関がある。
これまた異常なスピードで靴を履き替えると、犬の像前にたどり着いた。
「やっと来たわね」
「すまん! 道草食ってる余裕はない」
既に集合場所にいた里沙の手を取ると、そのまま歩いた。
「ちょっと……! いきなり何?」
里沙はよろめきながら、俺に引っ張られている。
「悪いな。秋葉たちにバレそうになった。今もつけられているかもしれない」
「どういうこと?」
「偶然、亜子に会って少し話してたら遅れをとった。そしたら、SF研究部の皆んなと合流しそうになった!」
「何やってるのよ……!」
はぁ、はぁ。ちくしょう。何だって、こんなに急がないといけない!?
無我夢中になっていたが、よく考えると里沙と手を繋いでいる状態だ。
周りからも時折、視線を感じる。
このまま行っても、つけられていたら、意味がない。一旦、落ち着こうか。
ちょうど、食べ歩きロードの近くに差し掛かったため、幸いにも物陰はたくさんある。
足を止め周りを確認したが、今の所、秋葉たちの姿は見えない。
そして、側幕で覆われたテントが俺たちの目に飛び込んできた。
見るからに倉庫代わりに使われているそれは、隠れ場として威力を発揮してくれるはずだ。
俺と里沙は目を合わせ、お互いに無言で頷くと、そのテントの中に入った。
「どうもー。少しだけ隠れさせていただきます」
誰もいなかったが、挨拶だけは欠かさない。
ここで、少し緊張が緩み、一気に疲労が襲ってきた。
「はぁ……。はぁ……」
「何興奮してるのよ。変態」
「はぁ……。違うっ! 疲れたから息切れしてるんだ」
「この空間で紛らわしいことしないで」
ふぅ……。疲れた。
俺は、マラソンをしたかのように肩で息をしていた。
「それにしても、狭いわね」
「仕方ない。背に腹は変えられないさ」
テントの中は、机やら器具やらでごった返しており、立っていられるスペースも限られていた。
俺と里沙以外に、人が立つことのできる場所がない。それほどまでだった。どうやって備品を取り出すかという疑問は置いておくとして、誰かが入ってきたら色々と誤解を招くであろう状況に、心は休まらなかった。
「とんだ道草ね」
「すまん。まさかこんなことになるとは」
「ふふふ。バカみたい」
里沙の様子は不機嫌ではなかった。
むしろ、この状況を楽しんでいるみたいだ。
続く




