01
カン、カン、カン、と。
高い金属音を響かせながら、僕は息を切らしていた。
時間は深夜2時。人里から離れた山奥で、僕は大事なものを誰にも見られずに始末したかった。
誰にも見つからないところで。
近所迷惑にならない所で。
カン、カン、カン。
しかし、それには手持ちの道具が心許なかった。無理もない。決行しようとした時には、道具を買い揃えるだけの店は開いておらず、大型量販店で日曜大工用のトンカチくらいしか手に入らなかった。僕はそれを一心不乱に振り回す。叩きつける。しかし、対象物はビクともしない。もう少し大きめのハンマー、若しくはドリルを買えば良いのか?ホームセンターが開くのを待てば良いのか?しかし今の僕には時間がない。
カン、カン、カン。
そもそも何でこんな事をしているんだ?
誰にも親にも見られたくないものを消したいからだ。ただ消すだけでは発見次第復元される可能性がある。
ならば物理的に破壊するしかないだろう。
カン、カン、カン。
それにしても名前からして本当に硬いんだな。ハードディスクって。
人間にはこの世に生み出して、この世から消したいものがある。
なぜ消したいか。それは自分以外の誰にも見せたくはないからだ。
人にとっては自分の超能力を書いた設定資料集。
人にとっては机の下のエッチな本。
そして僕にとってはとっておきの秘蔵エロ画像がつまったPCのハードディスクだ。
カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン
「ああっ!くそっ!」
八つ当たりである。
そしてやけっぱちである。
僕は汗だくになってトンカチを打ち付けても平然と横たわるハードディスクを持ち上げ、暗闇の方向へ投げた。
今思えば大声や投げたハードディスクが人様の迷惑にならなくてよかった。
だからこそ山奥での決行なのだが。
トラブルが起きて警察沙汰になれば多大な時間を消費してしまう。
今は時間が惜しい。
時間が惜しいだけに「馬鹿馬鹿しい…」と今の自分を思わずにはいられなかった。
人は精神的に追い詰められるとこんな奇行に走るのかと、我が身のことながら思った。
そう、僕は正気ではなかった。なぜなら僕は明日死ぬのだから。