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会いたくて…うぅん。私の近くにいてほしい。

作者: 久川梓紗

 私には五歳年上の幼馴染がいる。



 お姉ちゃんと同い年で、その人とはよく遊んだ。



 私がまだ幼稚園生の時もあの人はいっぱい遊んでくれた。



 彼は私が小学生になっても優しく接してくれた。



 高校生になった君とお姉ちゃんと差ができた。



 話が合うのはお姉ちゃんになった。



 私ではなくなった。



 いつも私とお姉ちゃんが二人でいると、貴方が話しかけるのはお姉ちゃん。それでいて次が私。




 いつも優しい笑みを私に向けた。






 ……それが辛い。






 お姉ちゃんと話す、私の憧れの人はいつも笑っていた。



 私に向ける“歳下への微笑み”ではなくて本当に心の底からの微笑み。




 その二人の関係から無関係だからか…それはすぐに分かった。



 二人が話している近くにいるのは辛くて、私は逃げ出した。



 ゆっくりと二人の間から消える事にした。



 …案の定二人はお話に夢中で私には気づいてくれなかった。




 お姉ちゃんと(さとし)くんが付き合う事になった。



 それはあの二人が高校二年になったばかりの春だった。




 桜が散ると同じに二人が散ることを願った最悪の季節。




 その年の冬。



 お姉ちゃんと慧先くんは別れた。



 理由は些細なことらしく「知りすぎている」と言うことらしい。



 なら、付き合わなければ良かったのに。




 そんなこと、私よりも二人が知っていることなのに。



 二人が別れたことを嬉しく思う最悪な私と、別れた理由に納得いかない私がいる。




 それから私が小学校を卒業した春の前。




 慧くんが式が終わったあと私前に現れて「おめでとう」と言ってくれた。



 私には嬉しすぎて彼に飛びつく。



 慧くんの身体は大きかった。



 すごく、大きかった。



「大きくなったな。」

「慧くんも。」

(かなで)ちゃんより俺が小さかったらおかしいしな。」

「…うん。」

 慧くんの服に顔をなすりつける。


 慧くんの匂いが好き。



 慧くんの体温も好き。



 私は慧くんが好き。



 私が中学生になって慧先輩が高校三年の春。



 お姉ちゃんと慧先輩は友達と言う関係で若干もと通りな感じになった。




 お姉ちゃんが慧先輩の家に勉強し(遊び)にいくと言ったので私はついて行くことにした。



 お姉ちゃんと慧先輩の口から出てくる言葉たちは私には難しかった。



 二人から飛び交う言葉に、二人が“受験生”だと言うことを思い知る。



 自分が場違いなところにいるのを感じて一時間後。




 私は家に帰ることにした。



 慧先輩は私を送ると言った。



 …外も暗くもないのに。



 断るのもなんか嫌で、送ってもらった。



 これから何時間かお姉ちゃんと二人っきりになる時間があるなら私にあってもいいと思ったから。


 …自分が二人を二人っきりにしてしまうのだけれど。





「奏ちゃんは何部にはいるの?」




「写真部。」



 慧先輩が通ってた部活。



「じゃあ俺が奏ちゃんと同い年だったら同じ部活だったね。」



「…うん。」



 慧先輩の名はたまに先生たちからも出てくる。



 評判がいい事がわかる。



「…慧先輩。」



「昔の呼び方でいいよ。」



「慧くん。」



「なに?」



「…私、慧くんの事が好きだよ。」



 その言葉のあとは虚しく、歳の差を知る。



「ありがと。でも、さなと戻る気はないよ。俺らにとって友達が一番いいポジションだから。」



 さな、私のお姉ちゃんのあだ名。


 昔から慧先輩はさなとお姉ちゃんの事を呼んでいた。



 …私はお姉ちゃんの妹でしかない。



 私は、慧くんにとって幼馴染でもなくてただの歳下。



 きっと慧くんは私が言った言葉を慰めの言葉だと思ったのだろう。




 …驚いた顔も嬉しそうな顔も嫌な顔もしないで、平喘とお姉ちゃんの話に戻したから。



「慧くん。お姉ちゃんのこと好きでしょ。」


「どうした。いきなり。」


「…きっとそうだよね。」


「俺は奏ちゃんのこと好きだよ。」


「…うん。知ってる。」


 それは、お姉ちゃんの妹として。


「知ってるって…何か勘違いしてない?」


「勘違いしてるのは慧くんだよ。」


 慧くんは意味もなく私の頭を撫でてから腕の中に私を引き寄せた。


 …好き。



 だけど……



 お姉ちゃんの代わりに私を触るのはやめて。



 辛い。




「私帰る。」



 そう言って慧くんの腕の中から離れて家に帰った。



 家に帰って自分の部屋に行き、ベットに倒れ、私は泣いた。



 …理由なんて自分が一番知っている。









 それから一年後。



 慧くんはやっぱりお姉ちゃんと付き合うことにした。



 理由は聞いてない。



 けど、それから私が高校を卒業してから二人は結婚式をした。



 その時、慧くんは呟いた。



「奏ちゃんの代わりがさなだよ。」



 耳に低く届いたその声に答える暇もなく慧くんは私の元を去った。



 お姉ちゃんはその様子をみてたのか私の近くに来て、微笑んで言った。


「奏が慧をふってくれたから私たちよりを戻せたんだよ。ありがと。」


 お姉ちゃんの優しい微笑みは、憎たらしい笑みにしか見えない。



 人の幸福の時間を幸福に思えない。




 …私は勘違いをしていた。




 ___そのことに気づいたのはとても遅く、取り戻すことは出来ない。





 これからきっと彼には何回も会える。




 ___けれどその時はいつもお姉ちゃんがいる。






 …私のそばにはもう_いてくれない。

閲覧ありがとうございました。

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