0-2 プロローグ
体が揺らされて、直ぐ近くに乱れた息が
聞こえる。背中から伝わる温もりから私が
抱えられているのだと思う。
(私は、ベッドで寝ているのでは・・)
そう思い、私は目を開けてみた。
私の目に映った物は、到底信じられない
ことだった。
(どういうことだ、これは。何故、体が赤子
になっているのだ。)
今、私は女性と思われる人の腕の中に在った。
女性は、誰かに追われているのか後ろを振り向
いたりしながら燭台が掛けられた薄暗い石畳み
の道を走っていた。
耳を澄ませば、少し離れた所から複数の足音
と声が聞こえてくる。そして、頭の中に、赤子
の声が響いた。
(夢だというには、少々生々しいな。それに、
頭の中に私以外の声が聞こえるというのは
一体どういうことだ。)
現状を把握しきれずに考えていると私の意思に
関係なく腕が動き、声を上げた。
その声が届いたのか後ろから響いていた足音が
より速くなっていた。
女性は慌てて口を窒息しない様にされど強く押
し当てて声を出ないようにした。
そして、目的地に着いたのか、取っての付いた
鉄製の扉を押し開け、中に在った椅子ですぐに開
かない様に扉を押さえつけた。
それを確認した後、中央に置いてあった机に赤
子を置き、覗き込みながら話しかけた。
「****、*****。***、*****。」
その女性の顔はフードを被っており、顔は良く
見えないが、その目には涙が落ちそうなほど溜ま
っていた
(言葉は分からんが、恐らく母親なのであろうな。
頭に響くもう一つの声は、この赤子本来の声な
のだろう。)
そして、もう一人の私(といえば良いのか分から
ないが)はそんな母親の状態に拘らず手を伸ばして
声を上げていた。
不意に扉から怒鳴り声が上がり、開けようと取っ
てを回すが椅子で押さえた事で上手く回らなかった。
母親は、赤子の頭を一度撫でた後、両手を祈る様
に組み合わせ何かを唱えた。
直後、私の周囲を光り覆い、そこで私の意識は再
度途切れる事となった。