0-1 プロローグ
「お義父さん。」
黒髪の少女はベッドに横たわる年老いた男性を
見ながら、悲しそうに呟いた。
「・・文目か。」
その呟きが届いたのか、老人は目を薄く開けて
先程呼び掛けた少女の名前を呼んだ。
「私はどれ位寝ていただろうか。」
老人は自分の現状が分かっているのか、確認す
る為に聞いた。
「二日位寝ていたよ。このまま目が覚めないか
と思って心配だった。」
少女、文目は老人が起きたことに安堵し、微笑
みながら答えた。
「寿命だからね。今、目が覚めたのも一時的な
ものだろう。悪いが千代を呼んで貰えるかい。」
文目は一瞬悲しげな顔をしたが。返事をして病室
から出て行った。
少しして、戻ってきた文目は老婆、千代と一緒に
私の近くにある椅子に腰を下ろした。
「柊さん、起きられましたか。」
千代は、何時もと変わらずに微笑みながら話した。
「ああ、もう先は短いだろうがな。」
私は、笑いながら言った。
「はぁ、柊さんは置いていく人のことを考えてから
物を言って下さいな。」
「そうよ、お義父さん。」
二人揃って、険のある顔を浮かべながら言った。
「まあ、そういうな。文目が高校卒業の晴れ姿を
見るまでは生きるつもりだよ。」
私達の義娘、文目は今年で18歳、卒業の年だ。
文目は私の弟の娘だったが、3歳の時、事故で弟夫婦
二人が亡くなり引き取って育てた子だ。
二人が事故に遭った時、私が所属していた病院に運
ばれて来た。医者として己の力の限りを尽くしたが、
怪我が酷く手遅れだった。
今でも悔いる時がある。
「絶対に、私の卒業式には出てもらうからね、お義父さん。」
「勿論だ。すまないが、少し疲れた。寝させてもらうよ。」
「はい、お休みなさい、柊さん。」
そして、私は、眠りに就き二度と覚めることはなかった。
初の投稿作品となります。先を特に決めずに始めましたので、進行速度は大分遅い上に拙い文章になると思います。少しでも楽しめる作品になれる様、書いていきます。