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ESCENA  作者: 湖森姫綺
第三章
67/68

no.28

 話が決まったら、行動しなくてはならない。

「父上に頼んで、ペンサミエント王に手紙を出します。どうか僕たちのことを許してもらえるように」

「では、わたくしもお父様に手紙を書くわ。それを一緒に届けていただけますか?」

 リリアの手紙は、ベルダへの思いと、半分は脅迫めいた内容だった。許してくれなければ、帰らないなどと書かれていたのだった。内容を知らないベルダは、自分が父王宛てに書いた手紙と共にそれを使者に渡した。使者は早駆けで王宮に入り、王に手紙を届けた。

「これはベルダめ、本気だな。なんとかペンサミエント王を説得せねばなるまいな」

 王はすぐに手紙を書き、リリアの手紙と共に、ペンサミエントへと送った。それから数日後、手紙を受け取ったペンサミエント王は、

「なんということだ!!」

 頭を抱えてしまった。第二王子ファルサリオが存在しなかったこと、リリアが砂漠の民の制圧に力を尽くしてくれたこと、そしてたった一人の王子であるベルダとのことをしたためたこの長い手紙は、今、王妃の手元にある。王はリリアの手紙を開いて見ていた。

「リリア、なんてことを!」

 またまた王は頭を抱えてしまった。

「どうしますの、あなた」

 手紙を全て読み終わった王妃が王に問いかけた。

「困ったものだ。どうしたものかのぉ」

 リリアとベルダ王子の気持ちは伝わってくる。けれど二つの国を統合するとなるとそう簡単にはいかない。ペンサミエント王国は、長い間、平穏な時代を経ている。これから改革が始まるフステイシアと上手くやっていけるのかどうか、不安でもあった。

「あなた、悩んでいても仕方ありませんわ」

「そうだのぉ。どうじゃ、フステイシアに行ってみるか? 少しの間くらいは王宮を離れても問題はあるまい」

「まあ、それは素敵ですわね。わたくしもリリアのように旅をしてみたかったんですわよ」

「そなたもリリアに感化されたか」

 二人は笑いあった。平穏無事がなによりという心情を持っていた王ではあったが、リリアにすっかり感化されたのは王も同じだった。すぐに旅支度が始まった。先に王と王妃がフステイシアの王宮に行くことを知らせる手紙を届けさせた。出立を控えたペンサミエントの王宮は、大騒ぎである。なにせ、王が王宮を出るのは、新婚当初シスネの別荘に旅して以来なのだから。荷物を作るだけでも大変である。それでも三日後にはペンサミエント王と王妃は、王都オエステを出立していた。

「ワクワクしますわね、あなた」

「そうじゃのう」

「リリアの気持ちもわかるような気がしますわ」

「じゃが、リリアは少々おてんばが過ぎるがの」

「そうですわね、ふふふっ」

 馬車に揺られながら、二人は、新婚以来の旅行に胸躍らせていたのだった。

 数日後、使者からペンサミエント王と王妃が来ることを知らされたフステイシアの王宮も大騒ぎとなった。隣国の王と王妃を迎えるのである。失礼があってはならないと、王も王妃も大慌てである。そんな中、落ち着いている宰相アルコンが色んな指示を出していた。ペンサミエントの船が滞りなく、停泊できるように、専用の場所を作り、港から王宮へ向かう道が整備され、王宮の至るところも改装されていた。

「おぬしがおってよかった」

 王は、ファルサリオの一件からアルコンを遠ざけるようになっていたが、今回の騒ぎで、淡々と物事を進めるアルコンに改めてその才を認めていた。

「いえ、私めは、王様のために働きますゆえ」

「アルコン、私からもお礼を言います。ありがとう。あなたはやはり宰相に相応しい方ですね」

 王妃も笑顔を見せた。

 全ての準備が整った頃、ペンサミエント王達を乗せた船がフステイシアの王都ファリアに到着した。王専用に作られた馬車が待たせてある。荷物をつけるための馬車も数台。煌びやかな馬車を見て、王妃は飛び上がらんばかりに喜んだ。

「こんな風にもてなしていただけるなんて、なんて素敵なんでしょう」

「わしらが来ることで、迷惑を掛けたのではないかのお」

「確かに、そうですわね」

 それでも二人は、高鳴る鼓動を抑えきれずに馬車に乗る。王宮へと続く道は、花がこれでもかというほどに飾られて、二人を出迎えていた。

「なんと美しい町なのでしょう」

「ファリアは豊かだと聞いていたが、素晴らしいのお」

 感嘆のため息を着く二人であった。

 高台に建てられた王宮へと入ると、主だった貴族たちが出迎えをしてくれた。

「ご苦労様です。皆さん」

「お出迎えありがとうございます」

「よくいらっしゃいました」

 貴族の間を抜けると、王と王妃が待っていた。

「遠路はるばるよく来てくださいました」

「いや、こんな風に歓迎していただけるとは、本当に嬉しい限りです」

 その後、四人は貴賓室に入る。ここもアルコンの指示で飾り付けが改装されていた。白を基調に金色の調度品が並んでいる。

「こちらは本当に豊かな国なのですな」

「いやいや、豊かなのはオアシスの民でして。砂漠の民は、貧困に喘いでります。今後はこの貧富の差を失くしていこうと思っている次第でして」

「それはよいことですね。国民の貧富の差が激しければ、苦しい者から不満がありますでしょうし」

「はい、今回のこともリリア姫に助けられて、事なきを得ましたが、私がこんな不甲斐ないものですから、国民の不満を先に読み取ることもできず……」

「王というのは、なかなか難しいものです。お互い、心労がたまりますな」

 王同士は、国政の大変さを嘆き、王妃同士は、ベルダとリリアの事で話は尽きない。が、肝心な話をしなくてはならない。

「本来なら、こちらから謝罪に窺わねばならないところを大変申し訳ない」

「いやいや、久しぶりの旅行を楽しませていただいておりますよ」

「ベルダとリリア姫のことになりますが、どうでしょう。二人を一緒にさせるというのは」

「その件に関しては、こちらとしても異論はありません」

「そうですか。良い返事をいただけて何よりです」

「そうなると国の統一も一緒に行わなければなりますまい」

「フステイシアは、今、不安定な状態にあります。これから貧富の差を失くしていき、安定を図っていきたいと思っているような状況です。そんな我が国との統一をどのようにお考えですか?」

「二人が婚約しても、結婚にはまだ早いですからな。その間に改革をされたらよろしいと思いますよ。それにはベルダ王子も参加されるのでしょう?」

「もちろんです。ベルダは私が言うのもなんですが、しっかりしていますから、頼りになります」

「では、その才覚も今回の改革で大いに役に立つでしょう。そんな立派な王子に嫁げるのですから、リリアも幸せ者ですよ」

「それでは、二人のことも国の統一もご承諾いただけると」

「喜んで」

 二人は握手を交わした。王妃たちは頬笑みあった。

「これで先のことは安心できます。実は、私は王の器ではないと思っていたんじゃが、リリアがベルダ王子と結婚したら、わしは早々に隠居させていただくつもりじゃよ」

「いやあ、実は私も自分が王の器ではないと思っておりましてね。機会をみてベルダに王座を譲るつもりでいたんですよ」

「頼りない王様たちですこと」

「ほんとうに」

 ペンサミエント王もフステイシア王も、心底、自分が王であることに負担を感じていたのだった。王であるが故の苦悩を、安穏と暮らしながらも感じていたのである。それがやっとリリアとベルダの話が持ち上がり、王座を譲れる者ができた。

「これでのんびり隠居できまな」

「そうですな、わははははっ」

 ふたりはこんなことで意気投合している。少々あきれ顔の王妃たちであった。その後、フステイシア王は、ベルダに事の成り行きを手紙に書き、使者に持たせた。

 その夜は、宮殿ではこれまでにないほどの賑やかな宴が行われたのだった。

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