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ESCENA  作者: 湖森姫綺
第二章
39/68

no.21

 その日の夕食、宮殿の大食堂には、王と王妃までもが出席していた。

「父上、母上、大丈夫なんですか?」

「ああ、わしらは少しみなの顔を見たら、休ませてもらうから、心配はいらぬ」

 王と王妃の左側にルースとルナが並び、その次にリリアとセレクが座った。他にギイと宮殿を守っていた10人の貴族たちやその婦人などが席に呼ばれた。

「今回のこと、ルースとルナに、ことにルナには感謝している。みなも以前と変わりなくルナを見守ってもらいたい。この島に平和を取り戻してくれたルナに乾杯」

 王がそう言って杯をあげた。席に着いた皆も杯をあげる。そして楽しい夕食の宴が始まった。

 王と王妃は、しばらくして席を立ち、寝所へと戻って行った。

 リリアは今回も冒険話をしたくてうずうずしていたが、セレクにきつく止められて、貴族を相手にルナとの関係を話していた。セレクは、久々の豪華な料理に舌包みを打っていた。

 宴もたけなわというころ、ルナがコクリコクリとし始めた。

「まあ、ルナ様、なんですか、はしたない」

 オルベがそれに気づいて、走ってきた。

「オルベ、いいから。寝かせてやろう。皆、僕とルナは先に休むが、楽しんでくれ」

 そう言ってルースがルナを抱き上げた。ルナはもうほとんど夢の中である。

「なんですの、ルナったら、寝てしまったの?」

「姫様、ルナも疲れたのでしょう」

「たっぷり寝ているでしょう、わたくしと同じくらい」

「姫様は一晩寝たら元気を取り戻しますしね。その辺がほんと素晴らしいと思いますよ」

「ほほほほっ」

「でもルナはそうじゃないようですね。きっと記憶を失ってからずっと緊張の糸が張りつめていたのでしょう。長い間、大変だった。しばらくそっと休ませてあげましょう」

「わかったわ。ゆっくり休んでね、ルナ」

 ルースに抱かれたルナにリリアはそっと言葉を掛けた。ルナにはもう聞こえていないようだった。

「眠り姫を寝かせてくるよ。君達はゆっくり楽しんでくれ」

 ルースはルナを抱いて大食堂を出た。外に出ると妖精達が戯れていた。

「プリンシペ・ルース、プリンセサ・ルナ、御無事でなにより」

「幸せを取り戻してくれてありがとう」

「ありがとう」

 皆が口々に言う。

「ああ、皆、これからも以前と変わりなく過ごしてくれ」

 ルースは微笑んで答えた。幼命宮の寝室にルナを連れてきたルースは、寝台にルナをそっと寝かせた。

「ルナ様、本当にお疲れなんですね」

「そうだね、オルベ。ゆっくり休ませてあげよう。僕も今夜はこちらで過ごすから、君ももう下がっていいよ」

「わかりました。ごゆっくりされてくださいませ」

 オルベはそう言って部屋を出ていった。

 それから三日間、ルナは寝室で過ごした。もう大丈夫と言うルナをルースが寝室から出さなかったのである。

 それと言うのも旅から帰った翌日には朝からリリアが「ルナの様子はどうなの」と大騒ぎしていたからだった。とにかく一人で少し休ませたいというルースの計らいだった。

 四日目になってやっと着替えて、リリアとセレクのもとに姿を現したルナに

「ルナ、もう大丈夫なの、本当に大丈夫なの?」

 リリアは半泣きで訊ねた。

「ごめんなさい。ちょっとゆっくりしすぎちゃったかしら」

「いいえ、まだまだ休み足りないくらいですよ、ルナ」

 セレクはリリアをちらっと見て言った。

「そうなの、ルナ? まだ体の具合が悪いの?」

「もう大丈夫よ、リリア。心配しないで」

「本当に、大丈夫なのね?」

「ええ」

 なるほど、ルースがなかなかルナを寝室から出さなかったはずである。この後、リリアはルナを相手に喋りまくった。

「羽のある妖精がね、いたの、沢山! それにね、王宮の前の草原がお花畑になってしまったのよ。一日であっと言う間なのよ、信じられる?」

 ルナは、息つく暇なくしゃべるリリアに頷くばかりだった。

「それにね、王様と王妃様ともお話をしたのよ。とても優しい方達ね。貴族の方達も皆素敵で、わたくし、楽しく過ごさせていただいたわ」

「姫様、そろそろ帰り支度をしませんとね」

 セレクがそう言うと、リリアは凍りついた。

「セレクはなんて意地悪なの」

「ですが、姫様も王宮に帰らないと王様もご心配していらっしゃいますよ。ほら、こちらの王様や王妃様がルナを心配していたように」

 セレクはさすがにリリアの扱いが上手い。

「そうですわね、お父様とお母様が心配しているわね。でもルナと別れるのは寂しいわ」

「私も寂しいわ、リリア。でもそう長くは王宮を開けてはいられないですものね、リリアはたったひとりの大切なお姫様なんですから」

「そうね、たった一人の姫ですものね」

 寂しそうな表情をするかと思うところりとにこやかになったり、リリアは忙しい。

 それから三日後、やっと支度の整ったリリア達が帰ることになった。

 ルースとルナも入江まで見送りに行くことになった。

 この島にルナが戻って来た時は、背筋がぞくりとするような風が吹いていた。静まり返り、灰色の雲が垂れこめていた。けれど今は、本来の妖精の国に戻っている。草原には花々が咲き乱れ、妖精達があちこちで歌い踊っている。

 馬の背に揺られながら、リリアは

「あ、ほら、あそこに! あっ、あっちにも」

 と、妖精を見つけては大はしゃぎ。今から帰るのだと言うことをすっかり忘れている様子だった。

 それでも入り江には着いてしまう。

「さよならなんて寂しいわ。ルナ、今度はあなたが会いに来てね」

「えっ、ええ、わかったわ。リリア」

「姫様、ルナは島に平和を取り戻したばかりですからね」

「わかっているわよ、そのくらい。ゆっくりでいいの。待っているわ、ルナ」

「リリア姫、セレク殿、今回は本当にありがとう。お気をつけて」

「ルース殿、ルナとお幸せに」

「なんだかルナばかりずるいわ。わたくしもいい人を見つけなくちゃ」

 リリアはそんなことを言う。しんみりした別れがあるのかと思えば、リリアにかかっては、そんなものはどこ吹く風である。

「それでは、そろそろ……」

 セレクがそう言って、リリアを連れて、乗船した。

「リリアがいなくなると寂しくなるわね」

「あの姫様がいなくなると静かになるな。なんとも複雑な思いだ。でもルナ、いい友達を持ってよかったね」

「うん」

 苦笑するルースの横で大きく頷いたルナだった。

 甲板では、大きく手を振るリリアとセレクの姿があった。船は静かに入江を離れていく。

 ルナも精いっぱい両手を振った。

 船が小さくなって見えなくなるまで……。

 その頃、船の上では

「セレク、ルナに負けないくらい素敵ないい人を見つけなくちゃ。あなた、誰か知らない? ルースより素敵な人よ!」

「姫様ぁー」

 まだまだこれからもこのリリアに振り回されるのだと深いため息をつくセレクだった。

これで第二章は終わりです。

次は第三章に入ります。

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