no.13
翌朝、ゆっくり目を覚ましたルナの横で、ルースがルナの長い髪を撫でていた。
「おはよう、お寝坊さん」
「あれ、だっていつもオルベが聖華茶を持ってきてくれるから、それで目が覚めるんだけど」
「どうもオルベは気を遣ってくれているようだね」
「もう、オルベったら」
「まあ、いいじゃないか。さて、僕は戻って支度をする。ガイとほか数名の者と作戦会議をする。君も出るかい?」
「はい、もちろん!」
「わかった。じゃ、着替えておいで」
ルースがそう言って出て行ってすぐにオルベが聖華茶を運んできた。
「おはようございます。昨夜はゆっくりできましたか?」
澄ました顔で聞くオルベ。
「ええ、ゆーっくり寝れましたよ。オルベ、気を回し過ぎよ」
「えっ、ルナ様?」
「まぁ、それはいいとして作戦会議に出るの。着替えを手伝って」
「はい。今、ルース様にお会いしまして、正装でいらしてくださいとのことでした」
ルナはオルベに手伝ってもらい正装に着替えた。
「これは、私も好きよ。気が引き締まるわね」
「ルナ様までが、作戦会議などと」
「私もルースと一緒に頑張るのよ。オルベ、私はじっとここで待っているようなことはしないわ」
「アーマの気持ちがよくわかりました」
オルベはため息を漏らした。
ルナがルースの部屋に行くと既に正装したルースとガイが待っていた。
「お待たせしました」
ルナが入っていくとルースがなにやら困った表情を見せた。
「どうかしたんですか?」
隣のガイに訊ねた。
「いや、ルナ様のご友人方がね」
「リリアがどうしたんです?」
「ルナが作戦会議に出るならわたくしもーと騒いでいたんだよ」
ルースが苦笑しながら言った。
「リリアらしい。あの、それじゃ……」
「ああ。もう待っているよ、会議室で。彼女たちも君を助けたい一心なんだ。協力してもらおう」
リリアがいて大丈夫かと少々不安にはなったが、ルースがそう言ってくれるのならとルナは思った。
会議室に行くと、10人の貴族とリリアとセレクがテーブルを囲んで座っていた。ガイも座り、ルースとルナは隣り合って座った。
メルクリオのところには、戦えるものは極わずかで戦闘ということにはならないと言う。だが、メルクリオを倒すためには、それなりの戦いは免れない。
「王妃様とルース殿がかえって二日。あちらになにも動きがないのも気になりますが」
ガイが言った。
「確かにな。不気味なところもあるし、なにを考えているのかわからない。とにかく、注意しなければならないだろう」
「はい」
「ルース様も王妃様ももうこちらに居るんですもの、メルクリオを倒すなんて簡単ですわよ、ほほほっ」
「姫様、お静かになさっていてください」
緊張する会議で、リリアが発言すると場がゆるむ。
「僕とルナは、まず行かなければならないところがある。僕達が帰るまでは、皆、防戦に回ってくれ」
「どちらに?」
「それはここでは言えないが、もしかすると戦わずして平和を取り戻せるかもしれない。これで傷つく者がでなければなによりだから」
「わかりました」
ガイが言って、皆は頷いた。
「もしひと月過ぎても僕達が戻らなかった場合には、作戦通り、北の塔を攻めてくれ」
「ルース殿?」
「大丈夫だ。多少の危険が伴うから、万が一のことを考えてのことだから。必ず、僕たちは帰ってくる。心配するな。皆も気持ちを引き締めて、待っていてくれ」
そこで会議はお開きとなった。
残ったリリアはもう我慢が出来ないといった様子で
「何処に行くの?」
と訊ねてきた。
「リリア姫、これは僕とルナでなければならないことですから」
ルースが答えた。
「わたくしがいてはダメですの?」
「ルース殿、内密な御用と受け取りました。ですから、なにをされに行くのか聞きません。私達が同行できる範囲で許してはもらえませんか?」
セレクが真剣な眼差しで言った。
「わたくし、どうしてもルナの役に立ちたいの。邪魔はしないわ、お願い」
「ルース、リリア達にも一緒に行ってもらいましょう。問題があるのなら、どこかで二人には待っていてもらえばいいわ。お願い、ルース」
ルナもリリアがじっとここで待っていることなどできないことが分かっていた。
「そうですね、わかりました。同行していただきましょう」
「やったあー」
「姫様、騒ぐところではありませんよ。くれぐれもお二人の邪魔にならないようにということですからね」
「わかっているわよ」
本当に分かっているのかとセレクはため息を漏らすのだった。
「明日の朝には立ちます。準備をしてください」
ルースが言って、リリアとセレクは会議室を出て行った。
「ルース、我儘を言ってごめんなさい。こんな内密なことに関わってもあの二人なら他言はしませんから」
「ああ、大丈夫だろう。それになんとも心強い気がするからね。さあ、僕たちはまず父上に報告をしなければ」
「はい」
王の寝所に二人は向かった。
少しずつではあるけれど、精気を取り戻している王の様子にルナはほっとした。
寝台に上体を起こしてお茶を飲んでいる王。
「父上、ルナと共に法王猊下に会いに行ってきます」
「ルナも行くのか?」
お茶を寝台の横の円卓に置くと王は心配顔でルナを見やった。
「ルースが行くのなら、私も一緒に」
「しかし私にも詳しいことがわからない法王猊下のこと、危険が伴うであろうに」
「私が守りますよ、父上。安心して待っていてください。これでうまくいけば戦わずにすみます」
「そうか、わかった。くれぐれも気をつけて、無事で帰ってきておくれ」
王はルナに手を伸ばした。ルナはその手をとって、強く頷いた。
その後、ルースとルナも出立の準備にとりかかった。
リリアは客間で「またこの服なの?」とセレクを相手に文句を言っていた。
準備が整い、夜の帳が下りた。
静かな夜である。
早く眠らなければと思うと余計目が冴えてしまうルナは、落ち着きなく寝室をウロウロしていた。
「ルナ様、ルース様がいらっしゃいました」
オルベがルースを連れて入ってきた。
「君に渡すものがあってね。まだ起きていたのか」
「眠れなくて。一人だとなんだか落ち着かない」
「実は僕も。これは口実でね。オルベ、これはルナに明日着せてやってくれ」
そう言って持ってきた服をオルベに渡すと、オルベは衣装室にそれを置いてきた。
「ルース様は今夜もこちらでお休みですか?」
「ああ、いいかな?」
「いいわよ、やったあ」
「ルナ様、そういうお返事はどうかと」
オルベがきつい視線をルナに向けた。
「まあまあ、そう怒るな、オルベ。明日はここを立たなければならない。今夜はゆっくり休むから、心配はいらないよ」
「これから大変なんですから、お二人とも体を休めてくださいね」
「わかっているわよ」
「それでは、私はこれで」
「お休み、オルベ」
オルベが出て行くと、ルナはぺろりと舌を出した。
翌朝は早く出立しなければならないので、二人はオルベの言った通り、すぐに寝台に入って休んだ。
翌朝、日が昇る前にルースは、王宮の自室に戻った。
「おはようございます、ルナ様」
オルベが聖華茶を持ってきた。
「ルースは?」
「既にお部屋にお戻りです。お支度を手伝いますから、着替えてください」
昨夜、ルースが持ってきた服に着替える。
「これってルースが昔着ていたものよね」
「そうですね、今のルナ様にちょうど良いです」
「動きやすくていいわ」
着替えを済ませて、聖華茶を飲んでいると、ルースがやってきた。
「よかった。ぴったりだね。リリア姫達ももう準備は整っているよ。さあ、出かけよう」
「はい」
外に出ると、
「またこの服なのよ」
リリアが文句を言った。
「目立ってはいけないんですよ、姫様」
「わかっているけど。あら、ルナ、なんだかかわいい王子様みたい。髪を結んだの?」
「はい。目立ちますから、結んでマントの下に入れたんですよ」
「ほら、ルナでさえ、こんなに気を遣っているのですから、姫様も文句は言わないでくださいね」
セレクにまた言われてぷくりと頬を膨らませたリリアだった。
「さあ、出かけましょう」
ルースが言って、四人はそれぞれ馬に乗った。
見送りに来ていたガイとオルベに
「行ってきますね」
ルナが優しく言った。
「お気をつけて」
オルベが落ち着きなく言う。
「心配はいらないよ、オルベ。ガイとともに後を頼む」
ルースが言うと二人はしっかりと頷いた。
四人は、霧がかかる夜明け前の草原に馬を走らせるのだった。




