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ESCENA  作者: 湖森姫綺
第一章
3/68

no.3

 とうとう旅立ちの日がやってきた。

 王は、セレクに説得されたものの、愛姫のリリアが旅などできるのかと未だ不安で堪らなかった。

 リリアは、生まれて十五年間、王宮を離れたことはない。外の世界のことをまったく知らないし、庶民の生活がどんなものかも知らない。

 旅ともなれば、食事とて王宮で食しているものとは、全く違うし、泊まれる宿のある町が近くにあればいいが、そうとは限らず、野宿することもあるだろう。

 王自身もそういったことを知らないため、不安は募るばかりである。

 そこでリリアたちには内緒で、近衛隊長のフェリエをつけることにした。

 フェリエは年は四十歳くらい。諸国を旅してきた他国人で、剣の腕をかわれ、この国の近衛隊長となった。

 王は、その彼に、リリアたちには気付かれないように後をつけさせ、危険な時には助けるようにと命じたのである。

 そんな事とは知らず、旅に出る三人はそれぞれの思いでいた。

 セレクは、こんなことで本当に次の満月までに戻れるのかと珍しく不安な思いに駆られていた。

 ルナは身支度を整えて、王宮の正面入り口前で待っていた。落ち着かなく視線を入り口に向けている。

「今日は大丈夫かしら?」

「いい加減、姫様には困らせられますね」

 姿の見えないセレクの声が返ってきた。

 実は、出立までに二日も無駄にしていた。

 なぜなら当座の食料と旅をするのに適した軽装で出かけると言ったセレクにリリアが猛反対。リボンやフリルのついていない旅支度の服なんて着られないと一悶着あったのである。

 リリアが普段着ているフリルたっぷり、リボンや花が飾られた豪奢なドレスで馬に乗れるわけもなく、かといって、地味な庶民の旅の服装では、どうにも納得させられそうにないので、ルナが急きょデザインをして、リリアが気に入るようなミニのドレスを作らせたのである。

 それで二日かかってしまったのだった。

「ルナ、似合うかしら?」

 ルナがデザインしたミニドレスを着て、やっと姿を現したリリアがポーズをとってみせる。

「まぁ、リリア様、なんて素敵なの。とっても似合っています。これならすれ違う人々も振り返らずにいられませんわ!」

 ルナは、思いっきり大げさに褒めていた。とにかくリリアは、人の目を集めるのが好きだ。そこをくすぐるしかない。これ以上、出立に時間をかけてはいられないのである。

 しかも後半は、ある意味、当たっている。こんなピンクのフリフリミニドレスで、しかも髪には大きなリボンまでつけた者が馬に乗っていたら、すれ違う人の視線を集めないわけがない。大きくため息が出た。肩の上あたりでも大きくため息が聞こえた。

「ルナはそんな恰好で嫌だわ」

「いえいえ、リリア様。私は動きやすいこのほうがいいので、我慢してください」

 ルナは、王に頼んで、兵士の服をもらっていたのだった。なにせリリアを連れての旅である。動きやすいことがなによりだろう。

「仕方ないわね、許してあげる」

 普段もシンプルなドレスを好んで着ているルナに対し、もっと華美なものにするようにリリアは言っていたが、リリアのお守り役をしているとシンプルなもののほうが断然いいのだった。

「姫様、では、出立いたしましょう」

「ちょっと待って」

 リリアの言葉にひどくうろたえたルナとセレク。

「お父様にご挨拶してくるわ」

 王妃と一緒に入口に出てきていた王の方に振りかえって言う。

 リリアは、王と王妃に挨拶に行って、すぐに戻ってきた。この辺はあっさりしているリリアである。

「では、リリア様、出かけましょうか」

 ルナが言うと

「ちょっと待ってっ!」

 その言葉にまたルナとセレクはびくっとした。

「何かまだあるのですか、姫様?」

 セレクが訊ねた。

「ルナが私に様をつけるのをやめてくれなかったら、わたくし、行かないわ」

「えっ?」

「へっ?」

 そんなことで駄々をこねるのかとルナは、もう脱力。

「わかりました、リリア。これでいいのでしょう。お願いですから、早く出立いたしましょう」

「そう、それでなくちゃ。わたくしはあなたをお友達だと思っているの。あなたもそう思ってくださって結構よ。良きパートナーとして、楽しい旅をいたしましょう」

 ルナはリリアが何をしに旅に出るのか、本当に分かっているんだろうかと不安に思いつつも、これでやっと出立できるのだとほっとする。

 リリアは白馬に、ルナは白に黒の混ざったグレーの馬に、姿は見えないけれどセレクにも茶毛の馬。それぞれが馬に乗り、やっとやっと出立することとなった。

 セレクが立ててくれた予定では、既に第一の目的地アブラソ山の麓町ガムサに着いているはずだったが、予定が二日と五時間も遅れたため、今日のところは、王都オエステに一番近い町パトに一泊することにした。

 パトは、貴族が住む町で高級な宿に泊まることができた。

 旅の初日には、良かったかもしれない。

 リリアは、白亜の豪奢な宿にたいそうご機嫌で、大はしゃぎ。

 ここに着くまでに散々、お尻が痛いと文句を言っていたことなど、すっかり忘れている。

「王宮には劣るけど、下々の者が住む町にこんな素敵なところがあるなんて」

「姫様、この町は高級貴族の方々のお屋敷がたくさんあります。そんな関係で宿も高級なものになっているんですよ」

「町自体のレベルが高いのね」

「まぁ、他の町に比べたら、生活水準はかなり高いかと……」

 なにせ生まれて初めての外泊ということで、セレクもルナも気を遣い、高級宿の最上級の部屋をとったのだった。

 宿の最上階を占めるその部屋は、六室。うち三室が寝室になっている。ベッドはどれもクイーンサイズの天蓋付き。部屋から繋がるバルコニーからは町が一望できた。これだけの部屋をとって、文句を言われてはたまらない。

 夕食も王宮のものには劣るものの、豊富な食材で作られたたくさんの料理が出た。これにはセレクもご満悦。食べることに楽しみを見出すセレクには嬉しい限りだった。

 夕食後、バルコニーでお茶を飲んだ。

「旅は楽しいわね。明日はどんなところに行けるのでしょう」

 リリアは、すっかりこれが普通なのだと思い込んでしまっている。

「セレク、やっぱり普通の部屋にしておけばよかったんじゃないの」

「そのようですね。明日どんなことを言われることやら」

「なにか、言いまして?」

「いいえ、なにも」

 慌ててルナが言った。

 お茶をそこそこで切り上げて、明日に備えて、早めに休むことにした。

 興奮冷めやらぬといったリリアは、不満顔だったが、やはり疲れたのか、大人しく寝室に入って行った。

 セレクとルナは、ため息をつきながら、各自の寝室に入った。

 翌日、案の定、心配していた通り、リリアに散々文句を言われた二人であった。

 隣町のペロの町で昼食にした。町で一番大きな店でしかもできるだけ豪華にしてもらった食事にもリリアは、文句をつけた。

「なに、これ。食べられるの?」

「姫様、わがまま言わずに食べてください」

 ルナは、ルナで朝から文句を言われ続けて、へとへとで食欲もわかない。

「ルナも食べられるときに食べておかないとお腹空きますよ」

 セレクは、食べられるものがそこにあれば、もうそれで満足なのである。リリアは文句を言いつつも、食べた。ルナも体力がなくなっては困るので少々無理をして食べた。

 その後、またリリアのお尻が痛い、疲れた、などの文句を聞きながら、それをかわしつつ、夕方には、目的地アブラソ山の麓町ガムサに到着した。

 町で情報を集めながら、なんとか宿を見つける。

 リリアには

「こんなところに泊まれない」

 と文句を言われたが、もう聞いていられない。贅沢を言っていられないのである。見つけた宿に泊まらなければ、他にないのだから。

 町で集めた情報によると、アブラソ山は、二つの山が連なってできている。手前が妻山のインファンタ。その奥に聳え立つのが夫山のインファンテ。白龍についても聞いてはみたものの、情報がない。

 宿で食事をしたあと、宿の主人に聞いてみると。

「随分昔じゃが、若者が山に登って、インファンテで白龍を見たと聞いたことはあるわなぁ~。本当かどうかはわからんが。お前さんたち、アブラソ山に入るんかい?」

 リリアのヒラヒラのドレスに目を丸くしながら、宿の主人が言った。

「はい。どうしても白龍に会わなければなりませんので」

 ルナが答えた。

「お若い女子おなごが二人でかい?」

 宿の主人には、セレクは見えていないのだった。

 三人分の食事を頼んで、綺麗に食べたものだから、それにも驚いていた主人である。

「こんなに食べられるのなら、見た目より力はあるんですかな、うぉほっほっほっ」

 豪快に笑って、主人は行ってしまった。

 ちなみに食事のほとんどを食べたのはセレクであった。


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