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ESCENA  作者: 湖森姫綺
第二章
20/68

no.2

 翌朝、目を覚ますと、しばらくしてオルベがお茶を持って来てくれた。

「おはようございます。昨夜はゆっくりお休みになれましたか?」

「ええ、ありがとう。あなたの用意してくれたこの夜着と香りのいいこのお茶のお陰で、よく眠れたわ」

「そうですか。その夜着は、ルナ様の一番のお気に入りでしたし、このお茶もお好きでしたから」

「このお茶はとても美味しいわね。リリアたちと来た時にもいただいたけれど」

聖華茶せいかちゃです」

「とても懐かしい味がするわ」

 そんな会話をして、オルベは朝食の用意にと部屋を出て行った。

 ルナは、寝室の隣にある衣裳部屋に入り、衣装棚にかかるカーテンを開けてみた。

「リリアがこれを見たら驚くでしょうね」

 みな形はシンプルで、色合いも落ち着いたものばかりである。生地は上質な絹ではあるけれど、飾り気のないドレスがほとんどだった。

 ルナはその中から、薄茶のドレスを出して着替え、鏡に向かい髪をとかしす。鏡の中の自分を見て、また現実が押し寄せてくる。

 どうやって記憶を取り戻せばいいのか、ルースと王妃を本当に救いだせるのか。ルナはそっとブラシを鏡台の上に戻した。

 その時だった。

 ばさばさっ。

 大きな羽音がバルコニーのほうからした。もしかしたらと行ってみると、光沢のある青い鳥がバルコニーの手摺にとまっていた。見たことのあるこの鳥は、セレクがリリアにあげた鳥である。ルナとの間をつなぐ手段でもある。

 リリアとは別れてまだ一週間。もうこの鳥がここに来たということは、リリアはルナがニンファ島に着く前にこの鳥を放ったことになる。リリアらしいとルナは微笑んだ。そして、鳥の首にかかった宝玉を掌に乗せてみると、それはキラキラ輝きだして、声が聞こえてきた。

『ルナ、もうニンファ島には着いたかしら。あなたが到着するころにこの子があなたの元へ着けるように早めに飛ばしてみたのよ。元気にしている? 無理はしていない? ルナ、離れていると不安で仕方がないわ。セレクが話があるって』

 リリアの言葉が心にしみる。少し間があってセレクの声が聞こえてきた。

『ルナ、記憶のことですが、魔法でなんとかできるかもしれません。その手の魔法に強いギナという魔法使いをそちらに向かわせました。数日中にはそちらに着くと思います』

『まぁ、セレクったら、わたくしに内緒でそんなことをしていたの。だからこのところ、相手にもしてくれなかったのね。おかしいと思ったのよ』

『姫様、今、ルナに宛てて話中ですよ』

『あっ、嫌だ、ルナ、ごめんなさい。わたくしは元気よ。虹色のインコにまた新しい歌を覚えさせたの。とてもうまく歌ってくれるわ』

 リリアのその声に変って今度はセレクの声がした。

『ルナ、ギナが行くまで無理をしないでください。ギナがきっと記憶を取り戻してくれるはずです』

『もう、セレク、わたくしにしゃべらせて。ルナ、無理しないでね。あなたのことだから、きっと頑張ってしまうんでしょうけれど、あなたの身になにかあったら、わたくし、生きていけなくってよ、わかっていて?』

 しばらく間があって、

『やっぱりあなたのいない生活なんて耐えられない。またあなたと一緒に暮らしたいわ。ダメなのかしら、ルナ』

『姫様、そんな我儘を言ってはいけませんよ。ルナ、気にしないでくださいね』

『だからわたくしが話しているんだから、取らないで、セレク。ルナ、また会えるのを待っているわ。お返事も待っているから、頂戴ね』

 そこで宝玉の光は消えた。これでおしまいということか。

 リリア、セレク、まだ別れて一週間だと言うのに、もう長く会っていない気がする。

 もう一度宝玉に触れると、今度は別の色に輝いた。これで話をすれば、いいのかしら。ルナはそう思って、声を出してみた。

『リリア、セレク、ニンファ島には着いたわ。元気にしています。リリア、離れ離れで寂しいわね。でもこうして話もできるのだから、ね。セレク、記憶、魔法でなんとかなるんですか。あなたがそういうのならなんとかなるかもしれないわね。私も早く記憶を取り戻したいわ。ギナを待ちますね。リリア、虹色のインコはまた素敵な声で歌を歌っているのでしょうね。いつか聞かせてくださいね。寂しいけれど、お互い頑張りましょう』

 そう言って、宝玉を離すと光がすーっと消えていった。そして鳥は、大きく翼を一度、バルコニーの手すりではばたかせてから、大空に飛び立っていった。

 ルナはその鳥が消えて見えなくなるまで空に視線を向けていた。

「ルナ様、お食事の用意が整いました。食堂のほうにおいでくださいませ」

 オルベが来て、言った。

「ええ、ありがとう」

 ルナはバルコニーから中に入りながら答えた。

「それから、そのドレスもいいんですけれど、食事がすみましたら、こちらの衣装棚のドレスに着替えてもらえますか?」

 オルベに着いていくと、先ほど入った衣裳部屋のルナが見た衣装棚とは反対側のカーテンを開けて見せてくれた。そちらには、フリルやリボン、それなりの飾りがついた衣装が入っていた。

「そうですね。こちらのドレスがいいかと思います」

 そう言ってオルベは、深い緑の光沢があるドレスを引っ張り出した。

「私はこのままでいいのだけれど」

「いえ、王様に会っていただきたいので、こちらにお願いします」

「はい」

「ルナ様は、そちらの衣裳棚に入っているドレスがお好きで、叔母のアーマがそちらは部屋着だから、外に出るときは、こちらのものを着るようにといつもルナ様を追いかけておりましたわ」

 そう言いながら、オルベは、ドレスに合わせて、髪飾りや首飾りなども出していた。

「アーマは、しょっちゅう癇癪を起していたんですよ。ルナ様ったら、夜着のままで外に出てしまわれることもあって。ふふふっ。でもルース様の言うことは、素直にお聞きになって。さぁ、これでいいわ。ルナ様、お食事が終わったら、お着替えをお手伝いいたしますので」

 昨夜の日記といい、オルベの話といい、想像していた妖精のお姫様とはかけ離れていて、本当にそれが自分なんだろうかと思えてしまう。でもどこか、リリアのようなお姫様ではないという感じも持っていた。リリアのしつけ兼教育係をやって、少しはリリアのようにお姫様らしくなっただろうか……いや、変わらないほうがいいかとも思ったりした。

 朝食が済むとオルベに手伝ってもらい、支度を整えると、妖精王の寝所へ向かった。

 リリア達との旅で訪れた時と変わりなく、精気を失った妖精王は、寝台に横たわり、力なく言葉を発した。

「よく帰って来てくれたね、ルナ。そなたが戻れば安心だ。私に力がないばかりに、そなたに辛い思いばかりさせてしまってすまないな」

「王様……」

「ルースも北の塔に幽閉されている。王妃まで……」

「安心してください。私がなんとか二人を救いだします。この妖精の国は、私にとって、大切なもの。王妃様やルースも大切なもので失えません」

「ルナ、ありがとう。そなたのその強さ、頼もしく思うぞ。くれぐれも無理をせずにな。そなたになにかあったら、ルースに一生恨まれる。それにそなたが生きていたことをルースが知れば、ルースも動きやすかろう」

「はい、大丈夫です。王様は、安心して、お体を休めてください」

「ああ」

 病床の妖精王を元気づけるため、こんなことを言ってしまったが、とりあえずは、セレクが言っていた魔法使いギナが着くまでは、幼命宮でひっそり暮らすことにした。

 今、メルクリオにルナが帰ってきたことを気付かれては困る。ルナが帰ってきたことを知られないほうが行動しやすい。妖精の国を乗っ取ろうなどと、大それた企てをするメルクリオなら、ルナが帰ってきたことを知れば、何らかの策を講じてくるに違いない。そうなれば、ルースと王妃を助け出すのも、警戒が薄い今より難しくなってしまうと考えたのだった。

 

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