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ESCENA  作者: 湖森姫綺
第一章
17/68

no.17

 出港した船は、港町マールに戻るのではなく、もっと南にあるイスラという港町に向かった。マールに戻ったのでは、またアルバ山脈を越えなくてはならない。それでは、満月までに間に合わなくなる。イスラなら船で2日、後は馬車を使って走り続ければ、なんとか間に合う。

 穏やかな潮流の流れで、マールより遠いイスラには、翌日の夕方には着いた。

 イスラの町で食料を買い込み、王都オエステまで送ってくれる馬車を探した。探しているのが王女リリアであることを告げると、馬車はなんなく見つかった。夕食は馬車の中ですることにして、休むことなく、イスラを出立した。

 フェリエは馬車に乗ることはできないので、自分の馬を走らせるしかなかった。

 馬車は昼夜を問わず、走り続け、途中、馬を変える為に街道沿いの町に寄っただけであった。お陰で3日でオエステに到着し、満月に間に合ったのだった。

 フェリエは遅れること、半日、やっとオエステに辿り着いた。楽をした三人と違って、一人で苦労を背負い込んだ彼は、もうぼろぼろ。王宮を目にした時は、思わず涙してしまったりした。

 王宮は歓喜の渦。たった一人の王位継承者であるリリア姫が無事に旅を終えて、戻ったのである。王宮だけでなく、市街地に住む人々までもが大喜びしていた。

「リリア、やっと帰って来たか。待っていたぞ。そなたのいない王宮は、火が消えたようだった。旅はどうであった。怖い目にはあわなかったか?」

 王はリリアを抱きしめて、顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

 その横で優しく微笑んでいた王妃は、王がすっかり忘れている二人に声を掛けた。

「大変だったでしょう。しばらくゆっくり休んでくださいね」

「ありがとうございます、王妃様」

「ありがとうございます」

 二人は深々と頭を下げた。

 王妃が休むようにといっている傍から、

「おお、今夜は満月の夜であったな。リリアも戻ったし、セレクもこれで元に戻れるのであろう。なんと喜ばしいことよ。さぁ、祝宴だ。祝宴の用意をしろ」

 王が叫ぶ。

「お父様、嬉しいわ。私、旅の汚れを落として、綺麗に支度を整えてきます」

「おお、そうしてきなさい。かわいそうに大したものも食べていないのだろう。今日はそなたの好きなものを沢山用意させよう、リリア」

 親子して……一体、誰のせいでこんなことになったのかをすっかり忘れている。おめでたい親子だ。ルナもセレクも旅の疲れがあって、できたら自室で休養を取りたかったが旅の話で盛り上がっている二人には通用しなかった。

「ごめんなさいね、二人とも。疲れているでしょうけれど、もう少しこの二人に付き合ってあげて頂戴」

 王妃が、困った人たちと言ったような表情で言った。

 祝宴の準備ができるまで、一旦、それぞれ自室に戻り、湯あみを済ませた。

 ルナとセレクは、それでもうぐったりである。本当にこのまま、休みたいと切に思った。

 けれど、リリアはどのドレスがいいだの、髪飾りはどれがいいだのと、ああでもない、こうでもないと祝宴に出る準備に余念がない。

 祝宴の席についた三人。王宮の中で大切に育てられたリリアのどこにこんなに体力があるのか……ルナとセレクも溜め息が出るほど感心し、呆れた。蒸気した頬を膨らませながら、旅の話を話しまくり、出された料理も食べるリリア。同席した者たちもリリアの冒険話に夢中である。

 セレクも久々の豪勢な料理に舌包みを打っていた。疲れているのは、ルナとフェリエだけか……。

「それでね、その白龍が背に乗せてくれると言うので、空を飛んだのよ」

「おお、空を飛んだのか」

 リリアの言葉に王が驚く。

「なんと!」

「素晴らしい!」

 周りの皆も声を出す。

「乗せてくれると言ったんじゃなく、乗せて送れと命令したんですよね、ルナ」

 セレクの声がした。

「ぷぷっ、そうでしたね。リリアは怖いものなしですもの」

 リリアは、話に夢中になって聞こえていない。

「姫様方は本当に楽をなさいましたよ」

 席の離れたフェリエもぼそりとそんなこを言いながら、久々の料理を堪能していた。

「ホッホッホッ、白龍に乗って飛んだなんて、わたくし達くらいのものよね。他の者には真似できなくってよ。ホッホッホッ」

 リリアの話に夢中になっている者たちは、まだ気づいていないようだったが、他の者たちとは別の意味でルナとセレクはリリアから視線を外せなくなっていた。いくら王宮に着いた喜びといっても、いくらなんでも盛り上がり過ぎである。リリアは、常軌を逸した様子でしゃべり続けている。

 ルナが視線を泳がせて、セレクの席を見た。

「いますよ、ルナ」

「リリア、どうしちゃったのかしら。ちょっと変みたい」

 ルナはセレクの席の方に体を寄せてこっそり言った。

「ちょっとどころではありませんよ。確かにおかしくなっていますね」

「おかしくなってる?」

「多分、ルナと別れるってことが相当堪えているんだと思いますよ」

「リリア……」

 ルナは複雑な思いでリリアを見つめる。

「このわたくしの美しさに白龍も敬意を表したのよ。ホホホ、ホッホホッ、オーホッホッホッ」

 笑いが次第に大袈裟になっていく。この頃になると王も王妃もリリアの異変に気付いた。

「リリア?」

「なぁに、お父様」

「いや、なに、疲れているのではないか?」

 王がそう言ったので、すかさずセレクが口を挟んだ。

「王様、姫様は初めての旅。しかもとても大変でした。見た目にはわかりませんが、姫様もかなり疲れています。祝宴はこの辺でお開きにして、続きはまた明日ということになされた方が良いかと思います」

「そうだな。話はいつでも聞ける。長い旅だったのだから、体を休めなくてはなるまい。ルナ、リリアを部屋まで頼む。リリア、ゆっくり休みなさい」

「まぁ、ちっとも疲れてなんていなくってよ、わたくし」

「リリア、もう遅いですから」

 ルナが傍に立って言った。

「そう? そうね、夜更かしはこの美しい肌に悪いものね。では、皆さま、失礼。オーホッホッホッ」

 リリアは高笑いしつつ、ルナはぐったりしつつ、セレクはまだ食べたりない様子ではあったが祝宴の間から出た三人。

「そろそろ満月も高くなってきましたね。セレクの姿を元に戻さなくては」

 ルナが言った。

「そうよ、セレクを元に戻さなくちゃ!」

 三人はセレクの研究室に行った。

 そこに納められていた折れた魔法の杖を出して、外に出た。

 夜空には、雲がぽつりぽつりと出ていたが、満月がくっきりと浮かんでいる。

 リリアが折れた杖を箱から出して、地面に置いた。それにルナが集めてきた品を順番にかけていく。白龍の髭、黄金の蔓バラの蜜、ユニコーンの角の削り粉、百歳を超えたコンドルの羽、妖精王の涙、必要とされた五品を掛け終わった。

 しばらく間があって、ふわりと杖が宙に浮かび上がり、眩いほどの光を放った。一瞬目を閉じた二人の前で、いつの間にか杖は元通り、一本の魔法の杖になっていた。

「やったわ、やったわよ、セレク!」

 リリアが叫んだ。

 二人が呻き声のするほうを振りかえると、そこに体を折ってしゃがみこんでいるセレクがいた。

「セレク、あなたの姿も見えるわよ!」

「セレク、大丈夫?」

 リリアとルナはセレクに駆け寄った。

「ああ、体が少し痺れていますが、大丈夫です。杖は?」

「はい、これ。元に戻ったわ。ごめんなさい、セレク」

 リリアは杖をセレクに渡した。

「よかった」

 セレクは杖を大事に抱えてほっとした様子だった。

 

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