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第一章 第五話 結末

短い話なのでご了承ください


――――――――――

 「野上さん」

 私に呼ばれ、振り返る。

 そして、パッと笑顔になり、

 「由利先輩!!」

 私の方に駆け寄ってきた。

 半袖のシャツに膝までのズボンと、ラフな出で立ちである。

 病院の時とは、随分大違いである。

 「聞いたよ、部活止めたんだって…」

 「由利先輩を憧れとしていましたから…、由利先輩がいなくなれば、私もいなくなるようなものですし」

 「私が引退したら?」

 「辞めませんよ、最後まで由利先輩が、走ってくれるなら…」

 緩くまとめた、長い髪をいじくりながら、うつむく。

 「やっぱり、野上さん…、知ってたの?」

 「はい…」

 とたんに、急に大人しくなる。

 「私が、もっと早く気づいていれば…」

 「気にしなくて、いいから。もうそれは解決しているし」

 「!」

 野上さんは、一瞬驚いた顔をして、私を見上げ、すぐにうつむいた。

 「…そうなんですか」

 「あのね、野上さん」

 「何でしょう?」

 野上さんは、顔をあげ、私を見上げる。

 「ゆーちゃんを《五葉のクローバー》に書き込んだのって、あなたよね」

 「はい、そうですけど」

 悪びれもせずに、さらっと口に出す。

 「呪っていいじゃないですか、由利先輩を傷つけるような人なんて」

 「それでも、私の友達なんだよ」

 「あれが、友達なんですか?自分の友達に、薬を盛るような人がですか!?」

 大人しかったのが一変して、あまりにも気が強い、野上さんの本性が現れる。

 「あれが、本当の友達なんですか!?」

 「確かに、一時は嫌いだったよ」

 「ほら、そ」「でもね」

 私は、野上さんの言葉を遮る。

 「あなたよりは、全然いい人よ、私のただ一人の大切な親友を傷つけたなら―」

 



――――――――――



 「今度は、あなたが傷つく番よ」

 









 その声は、由利先輩の声ではなかった。

 幼い女の子のような声。

 しかし、あまりにも大人びた口調で。



 あの夢の中で聞いた―。 あの声―。

 



 目の前にいたはずの由利先輩がいなくなっていた。

 代わりにいたのは、どう見てもサイズが大きい黒いパーカーに、赤いブーツ。

 深く被ったパーカーから覗く口許は微笑であった。

 「ひっ…!!」

 逃げなきゃ。

 そう思い、きびすを返し、走ろうとしたが、

 「え…!」

 目の前には、そいつがいた。

 あわてて、後ろを向き走り去ろうとすると、

 




 「無駄よ」






 その声は、私の、すぐ後ろから聴こえた。

 恐る恐る振り返ると、

 そこには、私の腰ぐらいの背しかないあいつが、私の左手を、小さな手で握っていた。

 私を見上げる顔から僅かに見えた―。

 爛々と輝いた黄緑色の瞳。

 「あぁぁぁぁっっ!!!」

 私は、そいつを乱暴に振りほどき、走り出す。

 


 怖い。

 怖い。

 誰か、助けて。




 涙目になりながら全力失踪していると、

 「痛っ!?」

 急に左手が痛みだした。

 締め付けられるような、痛みが、左手を襲ってきたのだ。

 私は、それになりふり構わず、走った。

 が、

 「え!?」

 急に左足にまで、締め付けるような痛みが走り、激痛となった。

 「痛いっ!!何で!?」

 あまりにも、痛みにこらえきれず、倒れ込んだ。

 ふと、左手を見ると、

 






 「あ゛ぁ゛ぁ゛」

 


 声にならなかった。

 何故なら、そこには―。

 左手には、黄緑色に輝くクローバーの刺青が―。

 しかも、五葉の刺青がそこにあった。

 そのクローバーを中心として、蔦が広がり、いつの間にか、左足までにも、蔦が延びていて、それが、締め付けていたのだ。

 「どう?気に入った?」

 私は、あいつだと思った。

 でも、違う。

 あいつと違って、幼い声じゃない。

 私と同じくらいの少女の声。

 でも、あいつと口調は一緒で―。

 「混乱しているのね」

 私の目の前に現れたのは、

 由利先輩と同じくらいの背―。

 赤いブーツ―。

 真珠のように、白く輝く素足―。

 少し大きめの、黒いパーカー―。

 フードは、被っていなくて―。


 「う゛嘘…!?」


 痛みで、言葉に出せない。

 爛々と輝く黄緑色の瞳に、白髪のショートボブ。

 「い゛い゛あ゛ぁ゛…」

 「痛みが結構効いているでしょう?」

 口許に、微笑をたたえたまま、倒れたままの私を見下ろす。

 「あなたは、あの子に《一生走れなくなる呪い》を願った」

 私は、痛みで反応すらできない。

 「だから、私は《下半身不随》をかけた」

 





 「でも、あなたは契約違反をした」











 「だから、あなたには―。」











 「《痛みのあまり、一生動けなくなる呪い》をかけてあげたのよ」






 私は、そのまま気を失った。












――――――――――




 「おはよう!ゆーちゃん!」

 「おはよう、由利」

 ゆーちゃんが、いつもの待ち合わせ場所で待っていた。

 ゆーちゃんは、私の方へと歩いてきて、チョップをかました。

 「痛いっ!?」

 「待ち合わせ時間位ちゃんと見なさいよ!十分も遅刻って…!」

 「ごめんごめん」

 「…とりあえず、行こう」

 ゆーちゃんは、ため息をついて、早々と歩いていく。

 私は、それについていく。

 











 ゆーちゃんは、《五葉のクローバー》に関しては、全く覚えていない。

 というか、私が、寝ている間に、何事もなかったかのようになった。

 ゆーちゃんは、いつの間にか歩けるようになったし、しかも、肝心なことは、何も覚えていない。ただ、昔の大会に関しては、「学校で話した」ということになっていた。

 田中先生も、おばさん達も。

 ゆーちゃんが、病院で入院したことは無かったことにされていた。

 ただ、野上さんに関しては逆に病院入りなっているらしいが。

 それに、野上さんも覚えていないだとか。

 私以外の、《五葉のクローバー》に巻き込まれた、または、巻き込まれたゆーちゃんに関わった人達の記憶から、すべてのそれが無くなっていた。

 私は、改めて《五葉のクローバー》のサイトを開き、《規約》を見た。

 あの時のように、嫌な感覚はない。

 ただ、すべてを最後まで見たとき、私は後悔した。

 申し訳なく思った。

 




 でも…、野上さんは、それ相応のことをしたんだから、しょうがない。

 私は、そのサイトを閉じて、部屋を出ていく。

 






――――――――――




 その姿を窓から見つめる存在がいた。

 「今回もさして面白くなかったわね」

 


 小さな体に、サイズが大きすぎる黒いパーカー。

 赤いブーツを履いた、細い脚をぶらぶらして。

 フードからは、やはり、微笑んでいる口許が。

 





 「もう行かなきゃ」






 風が、不意に吹いた瞬間。

 その姿は消えてなくなっていた。









――――――――――





  《規約》の続き


五 以下の下記からは、契約違反とかす。




 (生け贄)に、(契約者)の正体に気づかれた場合。



 (生け贄)の最も近い存在に、(契約者)の正体が気づかれた場合


 (生け贄)が自害した場合



 (契約者)が自害した場合


 



 これらの行為が行った、または、行われた場合、(生け贄)にかけられた呪いの二倍の呪いを受けることになる



 六 契約が成立、不成立に関係なく、終了後、(生け贄)と(契約者)の《五葉のクローバー》に関する記憶をすべて消す。

 ただし、例外として、第三者は除く。

第一章 斎藤由利と吾妻友里 終


第二章 戸田駿と五十嵐茜

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