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第二章 第八話 歯車

――――――――――――




 「五十嵐!」

 私を呼ぶ声が聴こえ、後ろを振り返ると、走ってくる青年がいた。

 「…誰?」

 「俺だよ、修次!伊藤修次いとう しゅうじ!」

 「…あ」

 確か、駿の友達の一人であった存在。

 駿が、よく話していた人。

 「あのさ…」

 「何?」

 「駿が、病院に運ばれて死んだって…」

 「!」

 私は、その言葉に動揺してしまった。

 多分、この少年にも悟られたのか、少年も狼狽する。

 「わ、悪い。つい…」

 必死にわめく少年が、ちょっと可笑しいと思ってしまった。

 「ふふ…」

 「?」

  「なんか、ごめん。気を使わせてしまって」

 「いやいや、俺こそ」

 「伊藤さんって…」

 「あぁ…、修次でいいよ」

 「え、じゃあ、修次くん?」

 「それでいいよ」

 修次が、天を仰ぐと同時に、私も天を仰ぐ。

 気がつけば、空は、夕焼けのそれであった。

 「一つ聞いてもいい?」

 「いいよ」

 修次は、天を仰いだまま、こちらを向かない。

 「修次くんって、駿と仲良かったんだよね」

 修次は、ピクリと反応し、こちらを向いた。

 「まぁ、それなりにはな」

 「じゃあ、昨日、駿とどんな話していたの?」

 「昨日…」

 修次は、思い出しながら、少しずつ話していった。

 「…五十嵐に告白されたこと…かな」

 私は、ピクリと固まったような感覚に襲われた。

 もし、駿が倒れなかったら、聴いていた返事。

 なんとなく分かっていたが、それでも聴いてみたかった。

 「駿は、なんて答えたかったの?」

 「…」

 修次くんは、口を閉ざし、そっぽを向く。

 「あの…、正直に言ってくれた方が嬉しいから…」

 修次くんは、こっちを向いて、気まずそうに呟いた。

 「…振るつもりだった」

 「…そっか」

 やっぱり。

 わかっていた。

 駿は、元々見てくれていなかった。

 《恋愛対象》ではなく、あくまで《女子の友達》としか見てくれていなかったから。

 告白する前も、した後も、変わらなかった。

 「あ、ちょ、五十嵐!?」

 修次くんが、慌てていた。

 何故、慌てているのか訳がわからず、首を傾げていると、修次くんが、ハンカチを差し出してきた。

 「え?何で?」

 「…」

 何も言わず、修次くんは、自分の頬を指した。

 私は、そこを拭こうとして、気づいた。

 






 泣いていたことを。







 

 「ご…ごめんなさい」

 私は、ハンカチで拭き、顔をそらす。

 「それは、返さなくていいから」

 「え、ちょっと」

 「悪い!行かなきゃ」

 修次くんは、そそくさと走っていった。

 私の手元には、涙を拭いたハンカチが残された。












――――――――――――― 




 俺は、暫く走って、完全に、五十嵐から離れると、少し立ち止まり、息を整えた。

 「やっば…」

 顔が熱い。

 あと少し、五十嵐といたら、冷静では、いられなくなっただろう。

 心臓がバクバクいっている。

 



 このまま、死んじゃっていいかも。






 そう思った瞬間、一気に冷めた。


 死んじゃってもいいかも、なんて俺が言うべきじゃないのに。


 俺は、スマホを取り出して、サイトを開いた。

 《五葉のクローバー》である。

 書き込まれて、まだ時間がたっていないそこには、





 《五十嵐茜》







 と書かれていた。








 「ごめん…。駿」

 俺の身勝手なせいで、自分の大事な親友を死なせてしまった。

 





 いや、違う。







 殺したんだ。







 俺が―、









 駿を―。








 俺は、サイトを閉じて、スマホを直した。

 





 「報いは、いつかしら?」






 声をする方を振り返った。

 でも、誰もいなかった。


 秋風が吹き荒れるだけだった。

 


 『報いは、いつかしら?』






 「報い…」


 俺は、恐ろしくなって、そこから走り去った。













―――――――――――――






 「…!?」


 俺は、絶句するしかなかった。

 まさか、修次が…?

 でも、そんなわけがない。

 修次は、そんなことを―。







 するわけが無い。





 「動揺しすぎよ」

 俺の隣で、少女は嘲笑うかのように、呟いた。

 「…お前は、《五葉のクローバー》の関係者だったのかよ」

 「関係者じゃないわよ」

 少女は、こっちを向く。

 黄緑色の瞳が、俺を貫く。

 「《五葉のクローバー》の張本人よ」

 口元が、ニヤリと笑った。

 「あのサイトの規約はご存知かしら?」

 「…知らねぇよ」

 「でしょうね」

 少女は、前を向き、歩き始めた。

 俺も、それに続いた。

 「規約の一つに、こういうのがあるの」

 少女は、感情を含まず、淡々と話していく。

 





 「《生け贄》に近い第三者の人間に、《契約者》の正体がばれた場合―」

 「待て。《生け贄》とか《契約者》とかって何だよ」

 「《契約者》は、呪いをかける人。《生け贄》は、呪いをかけられる人ってことね」

 「…」

 「話を続けてもよろしくて?」

 「…あぁ」

 「もし、正体がばれた場合―」










 「《生け贄》が受けた呪いの、倍の呪いを《契約者》は受けるのよ」

 「…何言ってんだよ」

 俺は、少女が何を言おうとしているのか、分かってしまった。

 嫌な予感しかしない。







 「例え、第三者が、この世に存在しなくてもね」

 









 少女は、こちらを向いて、また笑った。









 「お前…、まさか!?」

 「随分、頭が悪いようね」

 俺は、少女から慌てて遠退く。

 「本来、死んだ人間の魂は、この世から、あの世まで、一直線のルートしか用意されてないの」

 「…」

 「でも、たまに例外があるのよ」

 「…例外」

 「そう。人に必要とされている魂よ」

 「まさか…」

 少女は、笑いながら、俺を見つめた。

 「あなたは、私に必要とされたから、ここにいるのよ」





 「本来、ばれた瞬間に、呪いは返っていくけれど、このままじゃ、そのままにしか返らないわ」








 「後、十年かな」







 少女は、大きく笑い、響き渡る。


 でも、その笑い声は、俺にしか聴こえなかった。









――――――――――――――








 私は、家に帰って、ハンカチを洗っていた。

 「私って…」

 洗い終わり、干していると、修次くんの顔が、ふわりと浮かんだ。

 「最低…」

 駿に、ずっと一途に愛していたのに、駿が死んだら、今度は、修次くんに。

 






 最低である。






 でも。








 好き。








 「どうしたらいいんだろう…」







 私は、泣き崩れ、うずくまった。

 












――――――――――――






 「こんなものかしら」










 私が、屋根から見下ろしているのは、五十嵐茜。

 泣き崩れて、うずくまっている。





 「こんなものかしら」







 人の恋愛感情を変えることは、私にとっては、赤子の手を捻るようなものだ。


 まぁ、戸田駿が生きていたら、かなりの無理であったが。

 初恋で、四年間も、一途でいられると、それ以外の男を知らないということになる。

 ねじ曲げるのは、難しかっただろう。







 「さて」


 私は、伸びをして、五十嵐茜から離れていく。











 「楽しみねぇ」









 私は、暫く歩いていると、目の前に何かが現れた。

 「戸田駿ね」


 「…楽しいのかよ」


 「何が?」

 「人を傷つけて、何が楽しいんだよ!」

 私は、思わずため息が出てしまった。

 「あのね、私はただ、人の望みを叶えてあげているだけなのよ」

 戸田駿は、訝しげな顔をする。

 「望み?」

 「えぇ、望みと言っても、人が自覚していない、黒い望みを、ね」

 「…ふざけるなよ!!」

 戸田駿は、怒りの表情になり、私に掴みかかろうとした。

 「無駄よ」

 私は、右手を、彼に向けた。

 





 次の瞬間、戸田駿は、消えてなくなった。







 「私にとって、あなたはいる駒だった」



 私は、後ろを振り返る。





 「でも、要らなくなったわ」




 「もう、使わなくなったから」






 「見ていなさい」











 「自らの友人が、報いを受ける姿を」







 私は、また、歩き始めた。

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