ベティ
おもいっきり一発で書いた話しなので何が言いたいのか、何がしたいのか、まったくわからないかと思いますが、少しでも読んで、少しでも感動していただけたら幸いです。
アタシがこの少女に会ったのは、アメリカのとある橋の上でのことだった。
「……」
少女はじっと、アタシの姿を見ていた。
「……ごっ、ごめん、アメリア」
息を切らしながら、アタシの彼氏は駆け寄ってくる。
「「仕事で遅くなっちゃって」」
アタシは彼の言葉と重ねて、同じ言葉を言った。彼は驚いたように、間抜けな声を出した。
「男ってのは、どんな理由があっても、女に言うのはそんな言葉よ」
そう言いながら彼を見下すと、少女は目を輝かせていた。
「出直してきなさい、アタシ、待たされるのは嫌いなの」
彼は力が抜けたようにガクりと膝をついた。
「素敵!」
アタシが橋を去ろうとすると、少女は目を輝かせ、私に駆け寄ってきた。
「お姉さん、かっこいいのね。私もお姉さんみたいにかっこいい女性になりたいわ!」
「あら、ありがとう。でもね、あんな情けない男に捕まっちゃ駄目よ」
ウィンクをすれば、また目を輝かせた。
少女はそれから、私の後をついてくるようになった。
「ねぇ、あなたお父さんかお母さんは?」
いつまでもついてくる少女に、アタシはそんな疑問を投げかけた。
「わからないわ」
その答えとは似つかず、少女の顔はにこにことしていた。なんだか力が抜ける。
「どうしてあんなところにいたのよ?」
「んー……どうしてかしら……」
首を捻ってみせる少女に、ため息をつく。
「……じゃあ、あなたの名前は?」
「知らないわ」
にっこりと笑顔でそんなことを言われて、アタシはそんなこの子を不憫に思った。
両親も分からない、どうして自分がここにいるのかも、自分自身の名前も知らない、それなのに笑顔でいるこの子は、自分が今、どういう状況なのかわかっていないのだろう。
「困ったわね……」
「お姉さんは次どこに行くの?」
無邪気にそんなことを聞いてくる少女に、そうねぇ、と言いながら私は辺りを見回した。
「ベティ」
「え?」
「あなたのことは今からベティって呼ぶわね」
「ベティ?」
アタシがそう少女に言うと、少女は嬉しそうに笑った。
アタシ達の側の看板には、ベティという少女の絵が描かれていた。
「アタシのことはアメリアでいいわ」
「アメリアさん」
「何?」
「素敵な名前ね。ベティって名前も、素敵だわ。ありがとう!」
この子の笑顔を見ると、なんだか嬉しかった。
それから、街のどこを探しても、彼女の両親や、彼女を知る人物は見つからなかった。
帰る家も分からないというベティを、仕方がなく家に連れて帰った。
ベティは何も知らない子どもだった。テレビを見て、箱に人が入ってると驚いていたし、アタシの手料理を見て、魔法だと声を上げた。こんな素敵な料理は、見たことも食べたこともないと喜んでいた。キッチンを見るのも初めてだと言っていた。
ストリートチルドレンなのでは、と思ったが、彼女の身なりはきちんと整えられていたし、今頃誰かが探しているに違いない。それでも彼女を警察に引き渡さず、アタシの家に連れてきたのは、彼女が警察を怖がったからだった。警察という言葉は知らなかった。ただ、怖いと言って、アタシにしがみついていた。なんとか警察をごまかして、私は彼女を連れてきたわけだった。
夜、アタシはベティと一緒に寝ることにした。一人になると、なんだかとても悲しそうな目をするから。
「ねぇアメリアさん、私ね、将来はアメリアさんみたいな素敵な女性になるの。何でも出来て、何でも知ってて、かっこいい女性に」
ベティはそう言って笑った。なんとも無邪気な笑顔だった。アタシはなんだか、心が癒されるのが分かった。
そんな心地よさを感じながら、アタシはベティと一緒に眠りについた。
次の日もその次の日もアタシは彼女を知る人をさがしたが、そんな人は見つからなかった。でもその代わりに、アタシ達はどんどん仲良くなっていった。
「やぁアメリア。おや、もしかしてその子は娘かい?」
「冗談はやめてちょうだい。この子はアタシの弟子よ」
行きつけのカフェのマスターとは昔から仲が良い。からかうようなマスターの言葉に私は笑った。
「弟子?」
「あのねおじさん、私、アメリアさんみたいな女性を目指しているのよ!」
ねー、と言ってアタシとベティは顔を見合わせて笑った。
「可愛いお弟子さんだ」
マスターも一緒になって笑った。
「それにしても手がかりがないわね。本当に何も覚えてないの?」
「うーん。なにも」
「記憶喪失か何かなのかい?」
「そうなのよ。何も覚えてないから、アタシが弟子として保護してるってところかしらね」
マスターに入れてもらったコーヒーの中にあるスプーンをいじりながら、アタシはベティを見た。
「この白いのはなに?」
「ホットミルクだよ。なんだ、そんなことも知らないのか」
「甘いわ、とってもおいしい!」
ホットミルクを一口飲んで、ベティはにっこりと笑う。
「無邪気よね。何も覚えてないからなのかしら」
「警察には?」
「……このままじゃいけないとは思っているのだけれど、この子、警察を怖がるから」
「そうか……」
おかわりください、と微笑むベティを見つめ、アタシは目を細めた。マスターは笑って彼女にホットミルクを渡した。
「これからどうしましょうね、ベティ」
「?」
「あなたは何も覚えてないでしょう。このままアタシと一緒にいても、大丈夫なのかしら」
「私はアメリアさんが好きだわ。それじゃだめなの?」
日も陰ってきて、カフェを後にしたアタシ達は、とりあえず家に帰ることにした。
「ベティ……アタシもあなたが好きよ。妹が出来たみたいで。でもね、そんな簡単な事じゃないと思うわ」
「ねぇ、アメリアさん、私の本当のお姉さんになってよ。ね?」
「……あなたは寂しくないの? お父さんもお母さんもわからなくて、自分がどうしてここにいるかも……」
「私、アメリアさんがいればそれでいいわ。大好きなお姉さん! それだけでいいの」
その言葉がなんだかとっても嬉しくて、照れくさくて、笑った。
「今日の夕飯は何にしましょうか。……ベティ?」
パァン、という乾いた音がした。目の前で、ベティが、後ろに吹っ飛んだ。ドサッという音が聞こえた頃に、アタシはやっと動くことが出来た。
「べ、ベティ!? ベティ!? どうし……ひっ……!?」
ぬるり、と赤いものが、ベティを抱き上げたアタシの手につく。胸から溢れる赤いものを見て、私は叫び声を上げた。
「救急車……誰か! 誰か救急車を!!!」
「その子は、ベティと言うのですか?」
一人の中年男性が、アタシ達に近づいてきた。アタシは気が動転して、救急車と言い続けた。
「ベティ、ベティ……!」
「ベティねぇ。ずいぶん可愛らしい名前を付けてもらったんだなぁ」
「……あなたは、誰……?」
中年男性の言葉に、アタシはおそるおそるその男性の顔を見上げようとした。
「知らなくていい。彼女を預かってくれて有り難う」
パァンともう一度音がしたときには、アタシの目の前は真っ暗になって、肩に痛みが広がった。
次にアタシが目覚めたときは、白い部屋が広がっていた。
「先生、患者さんが目を覚ましました!」
バタバタと女の人が走っていく音が聞こえる。辺りを見回せば、ここが病院であるとわかった。
「う……」
医者の話を聞けば、アタシは出血多量で死にかけていたという。まだ、絶対安静だと言われた。
「……! ベティ……! ベティは……!? あの、女の子、女の子が側に倒れていたはずなんだけれど」
「いや、そんな子はいなかったよ。いたらこの病院に搬送されているはずだからね」
アタシは言葉を失った。ベティの痕跡は、どこにもなかった。アタシの手についていた血が誰のものだったかも不明だという。それから何度も警察がアタシのところにきた。でもアタシは、犯人について何も思い出せなかった。
「夢のような時間だったわ。一人っ子だった私に、妹が出来たみたいで幸せだった。でも、ベティはいなくなってしまった。本当に短い間だったけど、私はあの子にあえて良かった。とても、あっけないさようならだったけれど」
「ねぇでも、ママは殺されそうになったんだよね? それから命をねらわれることはなかったの?」
「子どもの割に難しいことを言うわね。……私は撃たれたけれど、急所は外されていたし、もう命をねらわれることはなかったわ」
「ふーん。なんでだろうね」
「なんででしょうね」
あれから何年も経って、私は結婚して娘を生んだ。ベティの話は、娘にだけもらすことがあった。
ベティ。不思議な女の子。私の心を、あたためてくれた女の子。彼女は本当に、死んでしまったのだろうか。
『やめて。その人は関係ない。殺さないで。言うこと聞くから。ちゃんと聞くから。殺したら、許さない』
『今までありがとう、アメリア……お姉ちゃん。大好きだよ……』
「ママ?」
「なぁに?」
「ママはアタシよりベティの方が好き?」
「なに言ってるのよ! あなたは私たちの宝物よ!」
そう言って私は娘を抱きしめた。
「アタシもママが大好き!」
私は今も幸せ。ベティ、私は、幸せに暮らしているわよ。
ベティちゃんはとある組織の子、という設定なのですが、そこまで煮詰められずに終わってしまいました。この話しを書く前日にとある漫画を読んでいたので、それの影響が強くなってしまいました。まぁなんというか、本当に思いつきだけで書いたので誤字脱字等が見られるかと思いますが、その際はご指摘下さると嬉しいです。また、矛盾点が見られる場合もあるかと思いますが、ご愛敬ということで許してください(笑)