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妹ちゃん外伝シリーズ  作者: 日下みる
1/2

赤ずきんとオオカミさんver

妹ちゃんが赤ずきんとオオカミさんの童話に登場!

昔むかし、森に住んでいる家族がいました。


「ねぇ?お祖母ちゃんが風邪引いたみたいなの。看病がてらお使いに行ってくれない?」

「…あたしがいくより、おにーちゃんがいったほうが、よろこぶですの」

「えー。僕、遊んでたい」


どうやら、妹ちゃんとお祖母さんは仲が良くないみたいです。

お兄ちゃんは遊びたい盛りなので、お手伝いを嫌がります。


「…二人で行ってきて?」

お母さん、苦肉の策です。


「ママがいけばいいですの」

妹ちゃんの正論です。

妹ちゃんも小学校低学年くらいには育ちましたが、まだまだ子供です。

小さい子供にまともな看病が出来るとは思えません。

それに、お祖母さんの家は森の奥に一軒だけポツンと建っているので、

子供達だけで行かせるのは問題です。


「私は晩御飯の支度で忙しいの。

食べ物持って行くだけだから。

看病はしなくてもいいから。

だから、ね?お願い」


お母さんは、娘の危機回避能力があれば、何とかなるだろうと思っていたりします。

買い被りもいいところです。


「はぁ…しかたないですの。

おにーちゃん、じゅんびするですの」

「えー。僕やだー」

「あたしひとりのがいしゅつはダメですの。

 ……おこづかいもらえるかもですのよ?」

「しょ、しょーがないなぁ。行ってあげよっか。おばーちゃん心配だし!」


お兄ちゃんはどうやらお調子者のようです。

誘拐とか詐欺に気を付けてくださいね。

それにしても、妹ちゃんには未だに外出制限があるようです。

お父さんの過保護っぷりが伺えます。


「籠の中にパンとワインが入ってるから渡してちょうだい。

 貴女達のお昼ご飯も入ってるから、何処かで食べなさいね」

お母さんが、籠の中身の説明をしながら、娘に渡します。

お兄ちゃんはすでに出掛ける準備を始めています。

人の話はちゃんと聞きましょうね?

お兄ちゃんの頭の中は、すでにお小遣いの使い道で満パンです。


「ママ、びょーにんにパンはたべにくいですの」

それもそうですね。

ただでさえ、お年寄りは唾液分泌が減ると言われているせいか、

パサパサのパンはあまり好みません。

病人なら尚更です。


「リンゴはあるですの?たべやすいものがいいですの。

 たまごとミルクはあるですの?フレンチトーストならたべやすいですの」

妹ちゃんは心遣いはあるようです。

仲が良くなくても、依頼はしっかりとこなさないと気が済まないようです。


「わかったわ。リンゴなら準備出来るから。その間に貴女も出掛ける支度をしてちょうだい」

「わかったですの」

無い物は仕方ない、と諦めたようです。

それに、小さな子供にあまり重い籠は持てないですしね。


「夕方には冷えるから、ずきんを着て行くのよ?」

「わかったですの」


「準備出来たー!早く行こうぜー!」


お兄ちゃんは準備が出来たようです。

話も聞いてないですしね。

遅れて妹ちゃんも準備が出来たようです。

二人仲良く、お揃いの赤ずきんを着て、手を繋いで出掛けます。


「いってらっしゃい」

「いってきまーす!」

「………いってくるですの」


たまに妹ちゃんが躓きながらも、順調に森の中を歩いていきます。

獣道があるとはいえ、森の中は歩き辛いですしね。

お兄ちゃんは、手を繋いでいない方の右手に木の枝を持って振り回して遊んでいます。

時には道に生い茂る枝を抑えて、妹が歩きやすようにしています。

妹を守るのがお兄ちゃんの仕事です。


お日様が天辺になったので、お昼ご飯を食べることにしました。


切り株をテーブル代わりに、お昼ご飯を広げています。

お兄ちゃんは豪快に腰を下ろしてリラックスモード。

対面には、妹ちゃんが何故かしゃがみこんでいます。


「どーしたの?森の中とか好きじゃん」

不思議に思ったお兄ちゃんは問いかけました。

それもそうです。

妹は、自然が大好きなので、よく芝生の上に寝っ転がっているのです。

なのに、今はしゃがみこみ、俯きながらご飯を食べています。

ただでさえ小さいのに、いつもより、小さくなっています。

ちまっと、小動物感が満載です。

チョンと突ついたら、後ろにコロンと転がりそうなほど丸まっています。


「きにしないでいーですの。

それより、きのえだをかしてほしいですの」

「?手が汚れるよ?」

衛生上、確かに褒められることじゃないですね。

お兄ちゃんも、木の枝を横に置いて、手を拭いてからご飯を食べています。


「ごはんはかたてでたべれるですの。もんだいないですの」

「ふーん?はい」

よくわからないけど、妹が何かを欲しがるのは珍しいので木の枝を渡してあげました。

妹ちゃんは、器用に左手だけでご飯を食べ始めます。

右手で枝を弄んでいます。


そんな妹ちゃんの背後から、森に潜んで二人を観察しているオオカミさんがいました。


「おっ!美味そうなガキじゃねぇか。今日の俺様の飯に決定だな!

…横にある丸いのは何だ?達磨か?」

まぁ、赤ずきんを被って丸まっているところを後ろから見たらそう思いますよね。


「まっ。届け物か何かだろ。この森には一軒しか家がないしな。そこに配達か?

 よっし!先回りして待ち構えてやるぜ!」


オオカミさんは森の中を駆けていきました。

物凄い速さです。

あっと言う間に、お祖母さんの家に辿り着き、風邪で弱っていたお祖母さんは碌な抵抗も出来ず、

丸呑みされてしまいました。


「よし。ババアのフリしとけば、油断すんだろ。その隙に…クククッ」


オオカミさんは、お祖母さんのフリをして、無用心に近付いた隙に子供を食べる作戦を組み立てたようです。


オオカミのくせに、子供を捕食するのに擬態をするなんて、

このオオカミさんの獣としての本能はどうなっているのでしょうか?


そんな事とは露知らず、子供達はお祖母さんのお家に到着してしまいました。

到着したのですが、何やら扉の前で妹が兄を止めました。


「おにーちゃん、ハンカチはもってきたですの?」

「?あるよ?」

「くちにまくですの」

「なんで?」

「なかはびょーげんきんだらけですの。うつるかもですの」

どうやら、マスク代わりにするようです。

「あ。そっか!」

二人して、ハンカチを口に巻きました。

これで少しは予防出来ますね。


「おじゃまし「まーす」」


挨拶の仕方は相変わらずの様です。

この辺りに住む人はみんな顔見知りなので、鍵を掛ける習慣はありません。


「おばーちゃん、大丈夫ー?お見舞いに来たよ!」

お小遣いを狙っているお兄ちゃんは、嫌がっていたのを見せず、良い子のご挨拶をします。


そんな兄を相手にすることも注意することもなく、妹ちゃんは家の様子を確認しています。

家の中は台所と、台所の近くにテーブル。

壁沿いに食器棚や暖炉、タンスなどがありますが、一軒家に一人暮らしのため、物が少なく、とてもサッパリしています。

どうやら、お祖母さんは、物を置くのはあまり好きじゃないようです。


お兄ちゃんは、お見舞いのアピールに部屋の最奥にある、お祖母さんが寝ているベッドに近付きたいのですが、手を繋いでいる妹が強く握っているため、動けません。

その妹は籠をテーブルの上に乗せて、中身を出しています。

…声を掛けるとか、ないんですか?


「おぉ。よく来てくれたねぇ。待ち侘びていたよ」

「うわ!おばーちゃん、凄い声!大丈夫?」

「ゴホゴホッ。どうやら風邪がノドにきたみたいでねぇ…ゴホゴホッ」

お祖母さんは咳をしています。

マスク対策は効果的みたいですね。


「おにーちゃん、りょーしさんのおうちはわかるですの?」

「へ?わかるけど…なんで?」

「おばーちゃんはおいしゃさまにみせたほうがいいですの」

「えー。大丈夫じゃない?」

「(そうだそうだ!余計な事すんな!つか、あの達磨、ガキだったのか)」

「ダメですの。こえがガラガラですの」

「ノドがガラガラなくらい、大丈夫だって」

「(あぁ。大丈夫だから余計な奴は呼んでくんな!)」

オオカミさんには、大人なんて邪魔な上、下手したらピンチです。

ぜひ、お兄ちゃんにはそのまま拒否してもらう方が好都合です。


「おばーちゃんをりょーしさんにおいしゃさまのところまで、はこんでもらうですの」

「えー。そこまでしなくても大丈夫じゃない?」


妹ちゃんは、説得方法を変えることにしました。

「おにーちゃんだけがたよりなんですの」

「え。しょうがないなぁ!僕、お兄ちゃんだしね!」

自分に一番懐いているとはいえ、滅多に人に頼らない妹から頼られたら、悪い気はしません。

兄の威厳をアピールするチャンスです。


トドメとばかりに、妹ちゃんは小声で呟きます。

「……はやくすると、おだちんがふえるかもですの」

「僕、急いで行ってくるね!」

「(このガキ、金目当てかよ!)」

オオカミさん、ピンチです。


「(まぁ、いいか。ガキが一人かと思ったら、二人だったしな。男より女のが美味いし。

 さっさと食って逃げるのが得策だな!)」

オオカミさんは、プランを変更したようです。

臨機応変に対応出来るとは、なかなか優秀です。


「きをつけてですのー」

そんなオオカミさんのプランにも気づかず、妹は兄を見送っています。


「(ケッ。自らピンチになるなんざ、所詮はガキだな!まぁ、俺に気付いてないしな。

 本来なら良い判断だが…テメェの不運を呪いな!)」


「さてと」

トコトコとお家の中に戻って来た妹ちゃん。

手首をプラプラ。

足首をクネクネ。

屈伸までしています。

小さな子供には、大人の看病は重労働なんでしょうね。

身体を解しています。


「おぉ。待っていたよ。ぜひ顔を見せておくれ」

お祖母さんに扮するオオカミさんが近寄ってくるように催促をします。


「…さっさとしょうたいをあらわすですの」

「何を言ってるんだい?」

「へたなしばいはいらないですの」

そう言えば、お祖母さんと妹ちゃんは、仲が悪かったですもんね。

顔を見たいと催促をする訳がありません。


「ちぃっ!いつから気付いてやがった!」

バレていては仕方ありません。

無駄な芝居は終わりにして、ベッドを降りるオオカミさん。


「へやがケモノくさいですの。バレバレですの」

「なん…だ…と…?!」

お兄ちゃんはまったく気付いてませんでしたけどね。


実は村の一部で、人食いオオカミが出る噂は広がっていたんです。

妹ちゃんは行動制限があるため、よく大人と一緒にいるので、情報は持っていたみたいです。


お兄ちゃんは、子供達と遊んでばかりいるため、知りません。

大人の「森に勝手に入ったらオオカミさんに食べられちゃうわよ!」という注意も、ただの怖がらせるための脅しだと思っています。


ちなみに、お母さんは主婦同士の愚痴や見栄が蔓延る井戸端会議に夢中で、

オオカミさんの噂は知らなかったみたいです。

そうでなければ、子供達だけでお使いを頼む訳がありません。


「ケッ!だが、ガキのお前に何が出来る?大人しく食われな!」

確かに、お祖母さんを丸呑み出来るくらい大きなオオカミです。

小さな子供に太刀打ち出来る訳がありません。


「…へやにちのあとがないですの。おばーちゃんはどうしたんですの?」

「この家にいたババアなら俺様が丸呑みしてやったぜ!」

「そうですの」

「……おい。悲鳴上げるなり、逃げるなりしないのか?」

いまいち臨場感に欠けますよね。


「きゃー。これでまんぞくですの?」

「馬鹿にしてんのか?!」

「リクエストにこたえただけですの」

…変な所で律儀ですね。


「お前には家族の情とかないのか?!」

その家族を食べたオオカミさんが言うのも微妙ですが、確かに妹ちゃんの反応は冷めています。

オオカミさんに罵声を浴びせるなり、お祖母さんを思って泣くなり怒るなりしてもよさそうです。


「よのなか、じゃくにくきょうしょくですの。おばーちゃんはそれにまけただけですの」

それで身内が食べられても、受け入れるというのはどうなんでしょう?


「へっ!ガキの癖によくわかってんじゃねーか!弱者は強者に食われる為にいるんだよ!」

世知辛い世の中です。

ですが、食物連鎖とはそういうものです。


「ただ、つよさにはいろんなしゅるいがあるですの」

確かに色んな強さがありますね。

一騎当千の強さも、人海戦術の強さも、勝てば官軍です。

オオカミさんが一騎当千なら、人間は人海戦術が得意に分類されるのでしょう。


妹ちゃんは、テーブルに広げ済みの籠の中身から、ワイン瓶を手に取りました。


「おっ。ガキの癖に一丁前に俺様と戦うつもりかよ?お前に勝ち目なんざないぜ?」

オオカミさんが小さな子供に負ける道理はありません。

どのような抵抗をしてくるのか、面白がっています。


「……………。」

「へっ。さっきまでの威勢はどうしたぁ?あ?恐怖で混乱してんのかぁ?無駄な足掻きは辞めな。

 俺様は慈悲深いからな。痛くないように丸呑みしてやるぜ?」

オオカミさんが優しく諭しながら、ゆっくりと妹ちゃんに近寄っていきます。


余りの恐怖に腰が抜けてしまったのか、妹ちゃんはしゃがみこんでしまいました。

顔も伏せ、床を見つめています。

赤ずきんが顔を隠し、オオカミさんには妹ちゃんの表情は見えません。

妹ちゃんにも、オオカミさんの姿は近付いてくる足しか見えないでしょう。

自分を食べようと近付いてくるオオカミさんを直視出来なかったのでしょうか?

空いている片手を目の前の床に着いて、辛うじて上体を倒れないよう支えている状態です。

それでも、右手に持ったワイン瓶は手放しません。


あと二歩、という所までオオカミさんが近付いてきてしまいました!


オオカミさんはどうやって食べようかと腰に手を当て、妹ちゃんを上から悠然と見下しながら考えています。

顔を無理矢理覗き込んだりして、無駄に恐怖を煽り、パニックをおこされては面倒です。

余り騒がれると、もしかしたら近くに猟師がいて、駆け付けてきてしまうかもしれません。

そう思えば、静かに怯えているだけの妹ちゃんはとても好都合です。

この場にお兄ちゃんがいたなら、さぞや大泣きして大騒ぎしていたことでしょう。


オオカミさんの意識が外に向いた一瞬、妹ちゃんが動きました!

しゃがみこみ、充分に蓄えたバネを使い右足で床を蹴り、オオカミさんの懐へ一瞬で入り込み、

お腹に左足の膝蹴りを半ば押し倒す勢いでのめりこませます!


ドゴッ!


グハァッ!


体重こそ軽いものの、バネ、スピード、勢いを充分に込めた膝蹴りは、

気を抜いているお腹に食らったオオカミさんにはたまったものじゃありません。

思わず、お腹を抱え込んで咳き込んでしまいます。

オオカミさんの体勢が崩れ、巻き込まれないように妹ちゃんは勢いを利用し、

既にオオカミさんの左側へと逃げています。


ゲホゲホと咳き込むオオカミさん。

余りの衝撃に、飲み込んだお祖母さんまで吐き出してしまいました。

体液で汚れてはいますが、意識こそないものの、奇跡的にお祖母さんは生きているようです。

呼吸をしている証拠に、微かに身体が動いています。


どうやら妹ちゃんは、床を見てオオカミさんとの距離を測っていたようです。

妹ちゃんには、距離感がわかりません。

その為、床の木目というわかりやすい目安で距離を測っていたのです。

また、距離感がないため、寸止めという器用なことも出来ません。

その為、体当たりも同然な膝蹴りになりました。

その結果、オオカミさんのお腹に蹴りがのめりこみ、お祖母さんを吐き出してしまうくらいのダメージを負わせました。


そんなことをされたオオカミさんは大激怒です。

せっかくありつけたご飯を食糧認定した子供ごときに吐き出す羽目になってしまったのです。


オオカミさんの頭は、怒りと痛みに血が上り、グラグラと煮えたぎっています。


「このクソガキッ!ゲホッ!ぜってぇ食ってやる!オェッ!」

オオカミさんは、痛みが落ち着いたら、散々痛めつけて妹ちゃんを食べる事にしました。

慈悲なんてものは遠く彼方。

倍返しでも足りない屈辱です。


けれど、オオカミさんが復活するのを待つ道理なんて、妹ちゃんにはありません。


上体を丸め、痛みに耐えているオオカミさんの背後に妹ちゃんが。

屈んでいるので、妹ちゃんにも届く位置です。


ガスッ!!


ジャンプをし、上から振り下ろしたワイン瓶がオオカミさんの後頭部に直撃しました!

重力にワイン瓶の重さが合わさり、かなりのダメージです。


そのままオオカミさんはノックダウン。

倒れる際に、床に顎をぶつけ、気絶してしまいました。


そのままにしておく妹ちゃんではありません。

気を失っているオオカミさんの手足を家の中にあるロープを持ってきて、縛っていきます。

まずは両手同士を。

次に両足同士を。

そして手と足に縛ってあるロープ同士を違うロープで纏めて縛ってしまいます。

これでは動くことも出来ません。

その上、猿轡まで噛ませています。


……………容赦ないですね。


オオカミさんが起きて、再戦、なんてなろうものなら、妹ちゃんには勝ち目がありません。

再戦にならないよう、入念に縛り上げます。

タオルで目隠しまでする始末です。


気絶しているお祖母さんは、妹ちゃんには重く、お風呂場に運ぶとか、ベッドに運ぶことなど出来ないので、そのまま放置です。


後は、お兄ちゃんが猟師さんを連れて来るのを待つだけです。


ミルクを温め、一仕事終わった後の休憩を取る事にしました。

もちろん、視界の中にオオカミさんが常に入るようにしています。


「ただいまー!猟師さん連れて来たよー!!」


あ。帰ってきましたね。


「お祖母さんが風邪をこじらせたと聞いたが、大丈夫か?」


お兄ちゃんと猟師さんが、声を掛けながら家の中へ入ってきます。


「まってたですの。タイミングばっちりですの」


「「?」」

お兄ちゃんと猟師さんは首を捻ります。

タイミングとは何のことでしょう?

お祖母ちゃんの着替えでもしていたのでしょうか?

それなら、男性陣の登場は、着替えが終わってからの方が都合が良いのに頷けます。

お祖母ちゃんの様子は…と家の中に視線を向けると…


「「!!!?」」


家の中には、体液まみれのお祖母さん。

そして入念すぎるほど入念に縛られているオオカミ。

何事もないように、まったりとホットミルクを飲んでいる少女。


一体、何がどうなったらこの様な状況になるのか、予想も出来ません。


「えーと…説明して貰ってもいいかな?」

先に気を取り戻したのは猟師さんでした。

この場には、説明出来る人が妹ちゃんしかいません。

他の二人は気絶していますし。


「このオオカミさんは、ひとくいですの。おばーちゃんがたべられてたですの。

 つかまえてほしいですの。

 でも、そのまえに、おばーちゃんをおふろばできれいにしてほしいですの」


オオカミは、捕まえるもなにも、雁字搦めに縛り上げられています。


「えーと、お祖母さんが、このオオカミに食べられていたってことかな?」

猟師さんは、仕事柄、森に人食いオオカミが出る事は知っていました。

なので、お祖母さんがオオカミに食べられた。というのは理解出来ました。

ですが、現在、部屋の中ではお祖母さんは体液まみれで気絶しています。

意味がわかりません。


「そうですの。だからはきださせたですの。ベタベタできたないから、あらってほしいですの。

 あたしじゃむりですの」


どうやって吐き出させたのか、猟師さんにはさっぱり理解出来ませんが、無事で何よりです。

小さな子供には、意識がない大人を運ぶのは無理でしょう。

幸いな事にオオカミは意識もなく、例え意識を取り戻したところで動ける状態ではありません。

お兄ちゃんが木の枝でオオカミさんを突いて遊んでいます。

とりあえず、猟師さんは、お祖母さんをお風呂場へ運び、汚れを落とします。

着替えは、妹ちゃんにも手伝ってもらいました。


「えーと、医者の所に運べばいいのかな?」

食べられたとはいえ、外傷もなく、風邪も大した事はなさそうです。

医者に運んで欲しい、と呼ばれましたが、医者が必要なほど重度な状態には見えません。


「おばーちゃんは、ベッドにはこんでほしいですの。おいしゃさまはいらないですの」


言われるまま、猟師さんはお祖母さんをベッドに運びました。

医者が必要ないのは、猟師さんも同意見です。


事態が把握出来ないのは、お兄ちゃんも一緒です。


「僕のおだちんはー?!」

肝心なお祖母さんが意識がないのでは、お駄賃をくれる人がいません。

せっかく頑張って猟師さんを連れて来たのに、これでは頑張った甲斐がありません。

実は、オオカミさんと戦うのに、家にいられたら邪魔なだけという理由で、

猟師を呼ぶ役目を妹に振られた事なんて、お兄ちゃんにはわかりません。

一石二鳥とはこの事です。


「そこのりょーしさんにもらえるですの」

「え?」

突然話を振られた猟師さんはビックリです。

何故、自分が男の子にお駄賃をあげないといけないのでしょうか。


「そのオオカミさんをつかまえていーですの。おだちんくらいやすいものですの」


捕まえるも何も…。

既に捕まえられてます。

意味がわからない猟師さんとお兄ちゃん。


「てがらはりょーしさんにあげるですの。そのかわり、おにーちゃんにすこしおだちんあげるですの」


それならば猟師さんは納得です。

既にこのオオカミは何人も犠牲者を出していました。

人食いオオカミの捕獲、もしくは駆除は、村からも依頼されていたのです。

それが果たされたとなれば、報酬も貰えますし、自分の立場も良くなります。

子供にあげるお駄賃なんて、それらに比べれば安いものです。


「君の分はいいのかな?」

妹ちゃんは「お兄ちゃんに」と言いました。

ですが、明らかに功労者はこの少女です。

本来、ご褒美を貰うのは、お兄ちゃんの方ではなく、この少女が正当だと猟師さんは思ったのです。

何せ、一人で人食いオオカミを倒した上に、雁字搦めです。

その後に猟師である自分を呼ぶ余裕があった事など、優雅にミルクを飲んで待っていた姿を見ていれば、安易に想像出来ます。


「…こんど、ごほんをかしてほしいですの」

「そ…そうか。いつでもおいで」

「ありがとうですの」


印刷技術がないので、本はとても高価です。

くれ。と言われたら困りますが、貸すだけならば問題ありません。

報酬としては破格に安いです。

ですが、本人が欲している物の方が報酬として正しいのでしょう。

猟師さんは、代わりに、お祖母さんの家のパトロールは丁寧にしよう、と思いました。

お兄ちゃんに少しのお駄賃を渡します。


「わーい!これで欲しいオモチャが買える!!」

お兄ちゃんは大喜びです。

それを複雑な思いで見守る猟師さん。


「くらくなるまえにかえるですの」

兄妹でこの違いは何なんだろう…?と不思議に思う猟師さんです。


「俺はコイツを小屋に運んでくるから、この家で待っててくれるかな?家までは俺が送ろう」

このオオカミの処遇は色々とあるので、一先ず、猟師さんの小屋にある牢屋に閉じ込めておかないといけないのです。


「はーい」

お駄賃を貰ってご機嫌なお兄ちゃんは良い子の返事です。

新しいオモチャが手に入るのですから、少しの我慢くらいは出来るというもの。


「わかったですの。ありがとうですの」

妹ちゃんは、お祖母さんの頭に濡れタオルを乗せたり、水を枕元に置いたりと大忙しの中、

手を止めて猟師さんを見送りました。


しばらくした後、戻ってきた猟師さんに二人は家まで送ってもらいました。


翌日、人食いオオカミ捕獲のお知らせが村に張り出され、猟師さんは一躍ヒーローとなりましたとさ。




めでたしめでたし。

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