tommorow 〜春の日〜
めちゃくちゃ過去に遡ります。
五年生です。
楽しんで頂ければ嬉しいです。
私とりー君。小学五年生、春。
いつだって人を拒絶していた。
…そんなの嘘だけど。
恐い。目の前にいる人間が恐い。
恐い。恐い。恐い。
私は、前髪を長く伸ばして、目の前を見ないようにした。
その日は春の風が強くて、前髪が浮いて、世界がよく見えた。
彼の変化に気がついたのは、最近である。
いつも遅刻ギリギリに学校に来る「りー君」が、最近、すごくはやく学校に来ている。
誰にも会わないようにクラスの誰より早く学校に行っていた私。
だけど、ここ一週間くらい、隣の家に住む「りー君」と毎朝会う。
なんでだろう…?
今日は「りー君」に会わなかった。
おかしいな。
そういえば、りー君は学校に朝早く来るけど、すぐにいなくなっちゃう。
一体、彼はどこに行ったんだろう。
私は、フラリと外に出てみた。
まだ誰もいない校内は、風の通りが良くて、私の前髪もふわりと浮き上がった。
どこに行こう。どこかへ行こう。
なんとなく「裏庭」という言葉が思いついた。
じゃあ裏庭に行こう。
サァッと風が吹いた。桜の花びらが舞っている。
「裏庭」には、おばけ桜がある。そんな噂を聞いたことがあった。
……本当にそんなのあるのかな?
恐る恐る「裏庭」に顔を出すと、そこには一人の少年がいた。
りー君だ。
「…ぅ、ずっ、うぅぅ…う…」
「……泣い、て、るの?」
小さな小さな声で言うと、りー君がこちらを振り返った。
「…花穂……」
「…どうし、たの…?」
りー君が、桜の木を指さした。
そこに花びらは一切なく、ただの枯れ木の桜があった。
「……桜花はいなくなった……桜も、枯れたんだ……」
桜花? 枯れた…?
「悲、し、い?」
「…でも、桜花は……」
身体がふるえる。
私は、ゆっくりと彼に近づいて行った。
「さみ、しい、の?」
「…かもしれない」
私に背を向けて、涙をこぼすりー君。
「あ、う…え、えっと…その、りー君……」
ギュッと、私はりー君を抱きしめた。
「花穂?」
「もっと、泣いて良いん、だ、よ?」
「……あぁ」
私はずっと、リー君を抱きしめていた。
りー君は泣き続けた。
それから何分が経ったんだろう?
チャイムが鳴った。
「…ありがとう。花穂」
こちらをりー君が振り返った。
その時、風が吹いた。
バサッと私の前髪が浮き上がった。
「…あ、あ…」
「花穂、前髪短い方が、可愛いと、思う…ぞ?」
そう言って、りー君は走っていった。
…え?
『前髪短い方が、可愛いと、思う…ぞ?』
私は、顔が熱くなるのを感じた。
これが【初恋】の瞬間。
私とりー君の、春の日の物語。
明日は絶対、りー君をもっと好きになるかもしれない。
そんなことを、一人で考えた。
感想をいただけると、本当に励みになるので、お願い致します。