表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

ALL MY LOVE!! ~Saint Chiristmas!~

俺と花穂。高校三年生、冬。


「サンタさんが来ない!」

全ては、彼女のこの一言から始まった……。


ここは、俺と花穂の通う学園の運動場だ。

現在十二月。暦の上でも体感温度でも【冬】というのは確かなのだが……。

俺は今、雪の中に埋められていた。

しかも、夏場に海でやる埋め方だ。

これは、もう俺を殺したくてたまらないからだとしか思えない。だが、彼女に殺人意欲があるとは思えないので、何か意味があってやっているのだ………と、思いたいのが本音だ。

「もう! りー君動いちゃ駄目!」

ガスッ。

少し体を雪から逃した俺を、花穂は思い切り踏みつけた。

か、花穂……そこはみぞおちって言うんだぜ………。

苦しむ俺をシカトして、花穂は深く積もった雪の上に文字を書いている。

「花穂、お前何がしたいんだよ……」

「何って…サンタさんだよ。サンタさん!」

「はぁ? お前、大丈夫か?」

俺が聞くと、花穂はムスッとした顔になった。

「だって、私の所には去年からサンタさん来てないんだもん」

彼女も俺も、既に高三だ。

もうサンタなんて来ないのは当たり前だろう。サンタだって忙しい身。半大人にかまっている暇はないハズだ。

「サンタは良いが、俺を生き埋めにしてどうしようって言うんだよ」

「生け贄だよ」

にっこりと愛らしく微笑みながら言った。

「イチ兄様が言ってたの。サンタを呼び戻すには、生け贄がいるって。あと、上からでも帰ってきて欲しいっていう思いが伝わるように、兄やんから教えて貰った呪文も書いたよ」

嬉しそうに目をキラッキラ輝かせながら、花穂が叫んだ。

し、信一さんに信二さん、双子で揃って余計なことを…!!

んなことしたら、親に恵まれなかった子どもたちが逆に増えちゃうだろ!!

「…それで、なんだよ。その呪文とやらは…」

「うん、兄やんがね。【参太来いっつーの夜露死苦】って書いたら来るって!」

……違うモノが来そうなのですが。

さすが信二さん。元ヤンなだけあるぜ☆ ……けして良い意味でなく。

「んなもんでサンタが来るか! サンタもドン引きだっつの! …ったく」

ようやく俺は、雪の中からはい出した。これ以上埋もれてたら、マジで凍死してしまう……。

「あぁ! 駄目だよ、りー君!」

花穂がわたわたしながら、こちらに駆け寄ってくる。

俺は、地面に放られていた自分のコートを拾って着る。…冷たぁっ!

「おい、花穂! 俺は超人じゃないから! これ以上雪の中にいたら死ぬ! 確実に、全力で死、ぬ!!」

本当に全力で死への危険性を訴えたが、花穂はきょとんとしながら…

「え? そうなの?」と、一言。

「当たり前だろっ!」

「だ、だだだって! イチ兄様が、りー君みたいなニートまがいの男は生き埋めにしたって死なないから好きなだけ花穂の生け贄にしなさいって!!」

全身の力が抜けていくのを感じた。

本当に風船から空気が抜けるように……。

「りー君、どうしたの?」

彼女の後ろに、信一さんの幻影が見えた。

敵意とか悪意とかを通り越して、軽く殺気を発揮しながら……。なのに、顔には余裕の笑みだ。いや、笑顔なのはデフォルトだろうか。

まぁ、きっと信一さん的には「いつまで可愛い妹にへばりついてるんですか? このゴミムシが。可愛い幼なじみでいられる期間は終了したんですよ。……死ね!」って感じだろう。

そんなの言われたことないけど、ありありと想像できるぜ……。恐ろしきシスコンマジック。

「…とにかく! そんなことしてもサンタは来ないんだよ」

「く、来るよ! だって、 イチ兄様と兄やんが言ったもん!」

花穂が、今にも泣きそうな顔になった。

う……これじゃ、俺が泣かせてるみたいじゃねぇかぁぁ!!

「ふ………ぅ…ひぐ……」

こんなところ信二さんに見られたら、コンクリ詰めにされて、日本海にダイブさせられるぅぅぅ…!!

「いや、その…も、もっと普通に呼ぼうぜ!」

「普通に…?」

俺はコクコクと頷いた。そして、コートの袖で花穂の涙を拭いてやる。

でもこのコート、さっきまで俺から引きはがされて雪の上に放置プレイングだったよな……。

「あ、このコート…」

「…ぷ。あは、冷たいよ、りー君。で、普通にって…?」

「えっと…願う、かな?」

願うって、普通なのか?

まぁ、いいや。生け贄ささげてヤンキー的メッセージよりは普通だろう。

「じゃあ…サンタさん。サンタさん。私の所に、また来てください。サンタさん…」

花穂があ、手を組んで頭を下げる。

サンタ、よくわかんねーけど、花穂んとこにもっかい来てくれ……。

心の中で、俺も願う。

そのまま十分が過ぎただろうか。

特に何も起きない。

サンタは、子どもが寝てるときに来るのだ。

こんな夕方から、受験を控えた高校生が、どんなに奇抜に、また普通に願ったところで来てはくれないのか……。

「やっぱり、駄目なのかな……」

花穂は悲しそうな顔をしながら、冷たい雪の上に座り込んだ。

俺も、彼女の隣に腰をおろす。

「花穂。…なんでそんなにサンタに来て欲しいんだ?」

「欲しいものが…あるの」

欲しいモノ?

「それなら、信一さんか信二さんが買ってくれるんじゃないか?」

そう言うと、花穂の顔が途端に不満そうになった。

「花穂?」

「違うの! 私はお金で買えないものが欲しいの!」

更に、わかってないなぁ…と、頬を膨らませた。

そりゃあ悪うござんしたね!

それにしても、お金で買えない欲しいモノって…なんだ?

「あ、雪だ。また降ってきた」

疑問を口に出せないまま、空を見上げる。白い雪が、ハラハラと舞い落ちて来ている。

「…花穂、帰ろうぜ。雪でまた寒くなるし、信一さんや信二さんが心配する」

「………やだ……」

花穂がブンブンと首を振った。それから、もう一度やだと呟いた。

俺は頭をガリガリとかいた。雪のせいで、ひんやりとしていて、少ししめっている。

ったく、どうすりゃ良いんだよ……。

花穂は、また頭をさげて願っていた。

お願い…と、つぶやく言葉と共に白い息が吐き出される。

「サンタ…」

…来いよ。

一生懸命願ってる花穂のために。

…来いよ。

欲しいものを、金で買えない何かを、花穂にやってくれよ。

なぁ!


シャン……。


「今、鈴の音!」

花穂が勢いよく顔をあげた。


シャンシャンシャンシャンシャン……


「これって…」

俺がつぶやくと、俺等の前にトナカイが突っ込んできた。

「……っ……きゃあぁっ!! イタタタタァ…」

後ろのくっついているソリから、そんな声がした。

「ソルティ、乱暴なんだけど! ソリの端で頭打ったよ!! あなたの乱暴な走りで、御主人様、頭打ったよ!」

「うるせぇなぁ……黙れよ御主人様」

ソルティと呼ばれたトナカイが顔をあげた。なんだか、顔も凶悪っぽい。

そして、肝心のサンタは……なんと、小柄な少女だ!

花穂の目が、またキラッキラ輝いてる。

「はぁっ! こんにちは。サンタです! 遅れてすいません! ちょっと…いろいろありまして…遅刻です!」

サンタが恥ずかしそうに笑う。

「…いろいろ?」

「はい。実は、サンタは寒くなったらプレゼント集めを始めるのですが……」

サンタが言うには、こうだ。

冬になると、子どもの欲しいモノをサーチするレーダーが動くらしい。

だが、温暖化の影響でレーダーが反応をしなくなり【サンタ協会】とやらに新しいのを申請したは良いが、なかなか新しいのが届かず、随分時間がかかったらしい。

「あ…私は。ふぁ! サンタは名乗っちゃいけないって…まぁ良いや。私、ルゥと申します。おじいちゃんが元サンタで、私が一昨年から引き継いで活動しているんです」

サンタ・ルゥがにっこり笑ってお辞儀した。

「私は、花穂! こっちがりー君!」

「そうですか。よろしくお願いしますね、花穂さん」

「うん!」

二人が微笑み会う。

なんとゆーか……華やかだ。しかし、俺はけして、ムッツリではない。

「おいルゥ!」

「ぐふぅっ!」

トナカイのソルティが、サンタであるルゥに頭突きした。

ルゥが腰を押さえてうずくまる。

「何すんのよソルティ………」

「何すんのよじゃねぇだろ。仕事しろ。この役立たずの御主人様が!」

プイとそっぽを向くソルティ。

「イテテ……そうだね。お仕事しなきゃ!」

ルゥはソリに乗せていた大きな袋を漁り、プレゼントを二つ出してきた。

「長い間、お待たせしました! メリークリスマス!! りー君、花穂さん!」

俺と花穂にプレゼントが手渡された。

「さ、私は行かなきゃ。一晩でたくさんの子どもたちのところを回らなきゃいけないから! バイバイ、二人とも。また、二人の子どものとこには行くからねぇ…!!」

ソリに乗り込んだルゥが、手綱を叩いた。

シャンシャン…という鈴の音だけを残して、サンタは次の子どもの元へと向かって行った。

「行っちゃったな…」

花穂は、貰ったプレゼントをもう開いていた。

俺も貰ったプレゼントを開く。

中には、小さなオルゴールが入っていた。

蓋を開くと、中で小さな天使がクルクルと回ってる。

俺は、口元に笑みを浮かべていた。

「……ねぇ、りー君」

花穂が、恥ずかしそうに笑っている。

「ん?」

「こんな寒い中…私のわがままに、付き合ってくれて、ありがとう。りー君。私、優しいりー君がね………好きなの」

「好きって……」

なぁ、花穂。それは、俗に言う【愛の告白】なのか?

なら、答えは決まっている。

「俺は……花穂のことが……」



雪がキラキラと輝いている。

その中で花穂は、嬉しそうに笑っていた……。

メリー、クリスマス。


end.


えー…アホみたいに長くてすいません。

冬、雪、学校をお題にしたらこんな風になりました。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


純白乙女思考。

http://m-pe.tv/u/?tihara


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ