第3話
その日の夜、恭一は布団に入り、ぼんやりと天井を眺めていた。
明日は学校だというのに、なかなか寝付けないでいた。
(…)
ごろんと寝がえりを打って目を閉じるが、やはり昼間の出来事が頭を離れなかった。
(ハルのやつ、あんなにきつく締めやがって…)
ちっと舌打ちしてもう一度寝がえりを打つが、どう態勢を変えても体が落ち着かない感じがした。
あのときの感覚は、一体なんだったんだろう。
今まで一度も感じたことのなかった…妙な感じ。
こんなに居心地が悪いのに、もう一度…もう一度だけ、あの感覚を味わってみたい…
恭一はしばらくじっとしていたが、布団の中でおもむろにごそごそと動き出した。
着ていた寝巻の帯をそっとほどき、両端を両手で握りしめた。
(…)
恭一はためらったが、ゆっくりと両端を交差させ、ひと思いに自分自身を締めつけた。
「うっ」
恭一は思わず苦しそうなうめき声を上げ、ぱっと両手を話した。
(何してるんだろう俺…)
そしてはあ、と大きなため息をついて、恥ずかしそうに目を閉じた。
◇
「ハル、お手伝いしてちょうだい」
恭一が学校に行っている間、ハルはたいてい母親か家の女中の手伝いをさせられていた。
ハルは黙って母親の元へ駆けよった。
「ハル、旦那様の古いご本をね、処分してくれとお頼みされたの」
「…」
「ほら、これ全部。適当にまとめて積んでおけば、業者さんが引き取りに来て下さるそうよ」
「…」
「だから、ハルもこれ縛るの、手伝ってね」
「…うん」
ハルは小さくうなずいて、母親から細い紐の束を受け取った。
ハルは、思わずそれにじっと見入った。
「これ、ハル。早くなさい」
「あ、はい…」
ハルは慌てて、本を何冊か積み上げて、きれいに整えた。
「ここの部屋ね、旦那様が私たちのために空けてくださるそうなの。今のところは二人じゃ狭すぎるだろうって」
「…ふうん」
「ありがたいわよね、だから、ちゃんと感謝の気持ちを込めて、お手伝いなさいね」
「わかった」
トキはハルがしっかり返事をしたのを聞いて微笑むと、作業に戻った。
ハルは自分が今積み上げた本の束をもう一度整えて、細い紐を下から通した。
腕をくるくると動かしながら本に巻きつけていき、本の角で紐を交差させ、乱れないようぎゅっと強く締めつけた。
そのとき、先日自分が若旦那の体を縄で絞めたときの感覚が、体中に蘇った。
「…!!」
ハルは思わず紐を離し、ぼんやりと天井を見上げた。
なんなんだろうこれは…
なんだか体が熱い…
ハルは本の束をその紐で結び終えると、また本を束ねて同じように紐できつく結んだ。
しかし、今のような感覚…
いや、若旦那を締めつけたときの感覚は、得られなかった。
「…」
「ハル、手を止めずにやりなさい。休むにはまだ早いですよ」
「あ、はい」
ハルは母親にたしなめられて少し慌てた。
しかし、何度も何度も本を束ねて紐で縛っては、そのわけのわからない不思議な余韻を、こっそりと確かめていた。




