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しかしだ——トウマは考える。いくら自由度が高いといえどもPKは犯罪だ。
犯罪を犯したものにはそれなりの罰が与えられるべきだと、初期プレイヤーと運営は考えた。しかしシステム上不可能にすることや、犯罪が発生してすぐにペナルティを与えることは、あまり面白みがないので避けたかった。そこでプレイヤー同士で相談し合って出来たのが「指名手配システム」だった。
犯罪を犯したものはシステムが判断し次第《指名手配》リストに載る。リストに載った者を他のプレイヤーが発見したら、そのキャラクターを選択して逮捕のコマンドを選べば犯した犯罪に準じた罰が与えられ、逮捕したものにはレアアイテムと懸賞金が手に入る仕組みだ。このシステムを利用して、賞金稼ぎを生業にするものもいた。逆に犯罪をするだけして逃げ切ることを楽しみとするものも増えたのだが。罰は大体、犯罪で得た利益+50パーセント程を取り上げる形になっている。万引きした者にはその商品の取り上げと、その商品の半分程を現金で取り上げる。トウマをPKした者はおそらく10日間のアクセスが不可能になるはずだった。
攻撃されるより先にこっちが相手を逮捕すれば勝ちである、トウマはこう考えた。
頭に血が上っていて冷静な判断が出来ていないようにも思えるが、彼には勝算があった。最初に《獣人》でログインした時にも攻撃されながらも逃げられたのだ、気をつけていれば平気だろう。逮捕する際に必要なのは、そのキャラクターが見えていることだけだった。それさえ満たしていればキャラクターを選択でき、逮捕のコマンドが自動的に発生する。ことが済めば適当に街の外に逃げて、別のワープポイントからログアウトすればいい。アイテムは手に入りそうだったら手に入れればいいし、無理なら今回は諦めよう。今日はshiratakiの復讐をすることだけを考えよう。
トウマは改めて《獣人》の方のアカウントを選択、エンターキーを連打してログインした。
種族《獣人》、職業《野伏》、キャラクター名「toom」。その他のレベルや状態などの状態が表示されてからイグディールの風景が画面に広がった。
上ボタンを連打して、操作出来るようになったと同時に上へ飛んだ。《世界樹》の枝につかまり、一気に頂上まで駆け上る。ここなら《獣人》意外のプレイヤーはたどり着けないし、葉に隠れて姿も眩ませる。
しばらく中央広場にあつまるプレイヤーを観察していたが、目的の人物は現れなかった。
「なんだよもう」
いないのならいないで、当初の目的だったアイテムを買おうと地面に降り立った。警戒していたが誰からも攻撃される気配はない。そのまま速やかにアイテム屋に向かっている、そのときだった。
「あっ!」
思わず声を出してしまった口を押さえ、建物の陰に隠れる。ロングスピアの仲間がアイテム屋の前にいたのだ。こっちの目的を把握して張っていたのだろう。
物陰からそっと見ていたのだが、完全に気を抜いているようだ。腰から下げた武器は鞘の長さや柄の形から普通のロングソードと見受けられる。ロングソードは一般的にそこそこのリーチがあるせいで接近戦には弱い。一瞬で懐に潜り込めばこちらが勝てるだろう。
トウマはそっと装備を確認した。攻守ともにバランスがとれているが、素早さが下がってしまう組み合わせだ。一瞬でケリを付けるため、全体的に軽めのものに変更した。無駄な装備も全て外す。《獣人》は身体能力が高いので装備は最小限にした方が力が最大限に出せる設定だった。魔法攻撃に備えたり、色々な特殊効果もあるのだが、トウマは今は必要ないだろうと判断した。
準備を終えて、タイミングを見はかる。
敵が真後ろを向いた瞬間、トウマは飛び出した。思いっきり背中に爪を立てる。
「うっ」
敵は剣に手を伸ばそうとするが、右手でその腕を掴み、捻りあげ、左手で剣を抜いて思いっきり背中に突き立てる。敵は石畳の地面に倒れる。減って行くHPゲージを眺めながら、実際だったら血が広がっていくんだろうなーとトウマは思った。残酷だし、あまり意味がないのでそんなエフェクトはない。
トウマは倒れた敵の頭を蹴りつけ、更に追い討ちをかけた。見つかると厄介だという焦りもあったのだろう。そろそろ相手のHPが切れそうだ。最後の攻撃だと飛び蹴りをかまそうとジャンプした瞬間、敵のHPゲージが一気に回復した。アイテムを使った気配はない。
しかし飛び蹴りは途中で止められない。敵は横に転がって既に下にはいない。何もない地面に攻撃をしてしまう。石畳が数枚くだけて剥がれた。




