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中世の趣きを残す石畳の上を一人の少年が走っている。走るたびに揺れる長めの髪からは猫のような耳が、サイズが合っていない大きめのショートパンツ(といっても膝までの長さがあるのだが)からは長い尻尾が飛び出している。
「畜生!ここも駄目か!」
少年が後ろを気にする。武器を持った、それも少年に比べてかなり体の大きい男が五人、少年と同じ方向へと走ってくる。明らかに少年を追っているのだ。その距離は徐々に縮まり——
「うわっ」
男の突き出したロングスピアが少年の尻尾をかすった。
「ちっ」
男は舌打ちをし、再び突く。同時に少年はしゃがんで避けるが、耳をかすり毛が舞った。
「あっぶねーなあ!」
少年は叫ぶとロングスピアの柄を両手で掴み、それを軸にして体を回転。頂点で手を離すと、空中で体をひねりロングスピアの主の頭を踏み台にして商店の屋根へ飛び移った。
「上だ!逃がすな」
男たちは各々の武器を少年の乗っている屋根に突き立てる。間一髪でそれを避け、更に上へ。二階のバルコニーへ飛び移るとそこから隣の建物へ、更にその隣へ。
一定の距離が離れた頃、少年は後ろを振り向いて自分の尻を叩いた。
「ここまでおいでーきゃはははは」
「くそ!逃がすな!地上から追え!」
「リットゥ、エチムミは《世界樹》へ先回りしとけ」
「はっ」
男たちのうちの二人が集団から離れ駆け出していく。人通りの少ない脇道から先回りするつもりだろう。
一方少年はバルコニーや屋根を伝い、街の中心にある《世界樹》へとたどり着くところだった。
後ろを振り返るが、男たちは追いつけない程に遠い。逃げ切れることを確信し、気を緩めた少年の目に脇道から迫る二人の姿が見えた。
「二手とか、卑怯だろ!」
少年は緩めた気を引き締め直し、持てる力を全て使った跳躍で《世界樹》のふもとへ降り立った。その背中に男が両手剣で斬りつける。
「ぐあっ」
少年は膝をつき、その場に倒れ込む。
「やった!」
男二人が走り寄る。
「なーんちゃって」
少年はすっくと立ち上がると馬鹿にしたように笑った。
「じゃあね、お二人さん」
そして手を振ると、少年の体は青い光に包まれて消えていった。
「はあーっ」
トウマは大きくため息をつくと背もたれに体を埋めてアイウェア・ディスプレイを外した。
「全くどいつもこいつも、そんなに《獣人》が憎いかよ」
ディスプレイを投げ置く。画面には「エヌマ・エリシュ・オンライン」と表示されたままになっていた。




