圧雪道
雪がしんしんと降り積もる。マユリが夜、不意に夢から覚め、音の消えた屋内で冴えざえとした空気の中トイレに出ると、ことことと、一階の入口が叩かれていると気がついた。
「なーした…」寝惚け眼のまま一階に降り、明かりをつけて戸の前に立つと、外側から戸が叩かれている。
「おいよ、行くてば待って」
マユリが戸を開けると蒼い洞穴がどこまでも広がっていた。呆然と見つめると壁面は雪だとわかる。雪の白が重なり、圧縮されて下に向けて青さが増しているのだ。白く燃え上がる炎が等間隔で雪を焦がしていた。
それでも熱はないのか、一向に雪は溶けない。ひんやりとした空気が頬にふれ、白く登る息が否応にも寒さを物語っていた。やがて穴の奥から何者かの声が聞こえ、やがて大きさを増してゆく。声はマユリに向けられていた。
「来なっせ、こっち来なっせ」穴の奥に人の姿が現れ始める。お爺さんやお婆さん、老人ばかりが手をまねいてこちらに向かっていた、その中に近所の顔を知った老人も混じっている。
マユリは恐ろしくなり、戸を閉めた。ふとその戸は冬は開かないはずだと気がついた。マユリの家は豪雪地帯に建っていた。屋根は雪が積もりにくいようにと、斜めに切り落としたように傾斜がつけられており、床は高い位置にある。
一階部分の入口は雪に埋もれてしまうため、夏限定でしか使用できないものがついていた。冬は当然締切で、開けようとも雪の圧力がかかっているので開けられない、そのはずなのに、と。
マユリは翌日から高熱を出して数日間寝込んだ。その熱の中、夢でマユリは何度も招かれる手を振り払い、穴の奥に向かうことを拒んだという。
体調が良くなった頃、一人暮らしの老人が雪下ろしの最中足を滑らせ、雪に埋もれて亡くなったと聞いた。その老人は確かに、マユリが夜、戸板の向うで見た老人だった。




