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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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削身羽化


 整形外科で知り合った脂肪を吸い、肉を落とし、文字通り身を削る手術を繰り返す彼に、なぜそんなことを続けるのだと理由を聞くと床の上を芋虫が這うのだといった。


 横になると顔や天井を青臭い芋虫が這いずりまわるのだと。彼は芋虫が大嫌いだった、幼少の頃に農家を手伝っていた彼は、芋虫を探しては良く摘まされていた。人見知りで中々他人の輪に入り込めない彼は、嫌悪するたび芋虫と自分を重ねたそうだ。


 そんなストレスが体に蓄積されると、やがて彼は外に出ることが億劫になり、人付合いが出来なくなった。それでも食べることを止められなかった彼の体は次第に肥大化していった。


 そんな状況下でもいつか、彼は自分が地面から離れ、飛べる日が来ると信じていたそうだ。そして、ある日気がついた。変化がないのは自分の体に芋虫を形作るものがあるからだと、丸々と太った芋虫、それは手足の指だった。


 すると天井や床を這いまわる芋虫が指に姿を変えた。このままでは自分は地面から飛べない、盲信に近い意思に従って彼は両足の指と、両手の指を切断した。


 時間をかけて、傷が治るのを待ち、少しずつ遂行を重ねると、夢に近づいているような満ち足りた気持ちが心を満たすのだそうだ。親族が何度も奇行を止めようと関わったが、何故か彼が行為を繰り返すたび、家には幸福が舞い込んだ。そうなってしまえば冷たいもので、困るのはあいつだけだと半ば放置し、親族も彼の好きなようにさせた。


 彼は最後には飽き足らず、自分の性器をも切り取ってしまったそうだ。指は全て第一関節半ばで切り取られ、不便にも関わらず男はそれを気にしてはいないようだった。次は腕や足を切り落としたいと男は恍惚とした顔で言った。蛹になれれば、自分はきっと変われる、空を飛べるのだと。


 彼の目は妖し気でもあり、魅力的でもある光に満ち満ちていた。しかし、彼は自ら己の夢を喰い千切り、完成された体を削り取ってその身を地面に張り付け、芋虫の姿に近づけているということに気がついていない。


 彼は最後に両足を切断する手術を海外で行い、完了すると共に成功したにも拘らず、恍惚の表情を浮かべて死んでしまったと聞いた。彼の目指す羽化とは、そこにあったのだろうかと私はふと、夏の火の中で燃え落ちる蛾の姿を思い浮かべた。


 羽がこげ落ち、芋虫のような姿になった蛾を。


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