白化
「先天的に視力があまりよくないんです。あまり強い日射を浴びると良くないですし、直接太陽を見つめることなんて自殺行為にも等しい、私のように虹彩が薄い人間は眼球振盪も日常的に起こっていますから、サングラスを外すこともできません」
そう言ってアミさんはサングラスを外す、すると瞳が目の中で左右に踊っていた。
「おかしいでしょう」
そう笑いすぐに、かけ直す。
「だから私達、仕事は本当に限られてしまうので、大体の人は事務職を選ぶんじゃないのかな。こういった占い師なんて私くらいのものです」
アミさんは白子症だった。髪色も薄く、肌も血管が透ける程に白い、目は見えなくはないのだが、普通校ではいじめが激しくなるので学生時代は盲学校に通っていたそうだ。
「紫外線を含まない光なら大丈夫なんですけど、眩しさにはやっぱり耐えられません。見てみたいという気持ちもあるけど、光が怖くなるんですよね」
アミさんは個室のようなテナントを借りて占い師をしていた。個室の中は薄暗くなるよう、光を調節してある。蝋燭の明かりに浮かび上がる幻想的な姿もかって、今ではそれなりに稼げているそうだ。
「外見を揶揄されることが多かったからかなりコンプレックスを抱いていたんですけど、いつからか逆に利用してやろうと思ったんです。だって悔しいじゃないですか、生まれついての個性ですもの。何も悪くない、だた普通に生きたいだけなのに、それが上手くいかないなんて」
そしてアミさんは手を重ね、私の顔を色の薄いサングラス越しに見つめた。
「昔はただの偶然だと思っていたんです。眼球振盪って左右に視界が揺れるから、視力が弱いのもありますから、見間違いじゃないかって。見つめると顔が多重に視えるんです。人によって三重だったり四重だったり、多ければ多いほど顔が白く、輪郭が薄くなってゆく」
私は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「あなたは大丈夫のようだけど、輪郭が消えている人は危ない。ああ言うのって個の消失って言うんでしょうね。何も考えずに体が動いてしまうようなからっぽな人間。そう言う人って何を言っても信じやすいの。私としてはやり易いけど、影響されやすいって逆に言えばどんなことでも信じ込みやすい。それこそ人を殺す事だって平気でやってしまいそう」
ため息をついて、アミさんは項垂れた。
「最近多いんです、そう言う人。のっぺらぼうの顔の下に別人の顔が透けて見える人、あなたもぶれ始めていますから、我の強い人間に取り込まれないように気を付けたほうがいいですよ。それとこの話は絶対に秘密にしておいて下さいね、でないと突然、知らない人に突然刺されちゃうかもしれませんよ」
アミさんはそう言って白い肌の上に赤く映える舌をちろりと出した。




