あおはなび
上空と水面、その両方に火が弾けている、下の花火は写し鏡だ。空を彩る大輪の花が全て、予定に狂いなく咲き終わると、並ぶ夜店に寄せては返す人の波も落ち着きを見せ、次第に引いていった。
私はこの寂しげな名残のような時間が好きだった。人の熱が引き、夜店も片付けられてゆく。買って身に付けたお面を頭に乗せて、汗をかくサイダーの瓶を手にとって残りを少しずつ喉に流し込む、浴衣の袖を風が揺らした。疲れてしまったのか寝息を立て始めた弟が、私の肩にもたれ掛かっている。
手に下げているビニール袋の中には赤い金魚が四匹、広い場所を求めてか口をぱくぱくと開閉させて喘いでいた。何か急に可哀想だと思えて、私は起こさないように弟を横にし、ベンチを離れ電飾の提灯を潜ると、池の前に出た。金魚を自由にしてあげようと思ったのだ。
すると、池に写り込んだ提灯明かりが増えているのに気がついた。どうして、と考える暇もなく、青い提灯の灯りが池の中心へと泳いでゆく。それらが、波一つない静かな水面の中央部で一つになると、音のない青い花火がぱんと咲いた。それは、数秒で光が中心から池の淵まで四方八方に散って消えた。なんだったのだろうと腰を下ろしたまま水面を見ていると、夜店の片付けた一区切り済んだのか、父親が傍らまで歩いてきた。
お前は見るの初めてか、人死が多く出た年はこういう事が偶に起こる。あん人らも、祭りを楽しみたいんだろうな。客がいなくなってからでないと、出てこないのはきっと恥ずかしいからだろうさ。そう言って、柏手を打ち、手を合わせた。
池に清冽な響きが万辺に渡る、賑やかさが嘘のように引き、冷やりとした風が首に触れた。弟がありがとうと寝言を呟く。再び片付けが始まり、僅かな喧騒が戻ると夜店の軒先に下がる風鈴が、夏の終わりを告げるようにちりりん、と鳴った。




