庭の積み石
佐井が庭の草むしりをしていると、庭木の影に石が積まれているのに気がついた。手で握り込めるくらいの大きさの丸い扁平の石が三つ程積まれている。
先月の草むしりの際はそんなものは無かったのでこの一ヶ月の間に何者かが悪戯したんだなと考えて、積み石を崩し土に埋めた。翌日、何気なしに綺麗かたついた庭を目にして満足感にひたっていると、同じ場所に再び石が積まれていた。
数は三つで昨日と全く同じだ。わざわざ掘り起こしてまで嫌がらせされていると思うと腹が立ち、佐井はその石を今度は河川敷まで行き、川の中に投げ捨てた。するとその翌日には全く同じ石が再三積まれている。
一体何なんだと石を手にすると、手触りや形までがやはり捨てた石そのものだ、さすがに気味が悪いと思いつつも、佐井は石を先日と同様に川に投げ捨て、翌日は庭を見張っているた。
暫く縁側に座って見張っていたもののずっとそうしているわけに行かず、僅かに目を離し、戻ってくると丁度石を置く者の姿を目に捉えた。佐野は反射的に怒鳴り上げると日に焼けた肌、半ズボンにシャツ、野球帽をかぶる少年の後ろ姿がすぐに塀の向うに消えた。
佐井は彼の事を知っていた。数日に一度現れては庭池の鯉に勝手に餌やりをしたり、気がつけば庭の隅で遊んでいる姿を見かけたからだ。怒った回数も両手では効かない、佐井にとっては厄介の種の子供だった。
佐井は仕方ないとため息をつくと、子供の親元へと向かって苦情を述べようとすると、なにやら慌ただしい。聞けば佐井が今苦情を述べようとした原因の少年が五日前に轢き逃げにあい、昨日息を引き取ったのだと聞かされた。
ではあれはと考えるが、そういう事もあるのかとお悔やみを述べるのみにして、佐井は家へと引き返した。翌日から石は三つ、四つ、五つと一日ごとに一つづつ増え続け、七つ目になるとそこで止まり、それきり変化はしなくなった。
佐井は崩す事も考えたが、怒鳴る相手が不意にいなくなってしまった事に寂しさを覚え、毎日石の塔に手を合わせ祈ることを続けている。
それに応えてか、その日以来隣接の公園から不思議と頻繁に庭池にボールが入り込む。佐井の庭からは、今も怒鳴り散らしが続けられている。




