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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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おくりぶね


 海辺には打ち上げられた巨大な魚の死骸のように、朽ちかけた船が肩を並べていた。


 風や波音に混じり、自重からか金属が軋み、悲鳴を上げている。就業時間を終えて、一人残るモハメッドは一艘の船を見上げていた。船体を半分切り取られた船は、がらんどうの体の中を月明かりに晒し、廃屋のように佇んでいる。


 薄汚れた波が靴を洗っていた。年間何百艘もの船を解体しても、この海岸には役目を終えた船が生まれ変わるために流されてくる。


 薬品や重油がこびりついた巨大な鉄の塊を、人の手で解体するには危険が伴う、現に年間数百人の作業者が命を落としていた。


 それでも貧困から逃れられない労働者の、希望は後を絶たない。モハメッドは船を見上げ、先日解体中、鉄に押しつぶされた長年の友人の事を想っていた。


 ここでは解体される船と人の命では、秤にかければ人の命の方がが軽くなる。死が平常化して異常を感じなくなっていたモハメッドは、何年か振りに友人とこれまでに亡くなった同僚を想い、静かに祈った。


 月を雲が覆い一際波音が船の悲鳴を打ち消す。再び明かりが沖をさすと仄かな渦ができ、尖頭が突き出して、徐々に船体が海底から飛沫をあげて現れた。それは木製の帆船で、波に乗り大きく帆を張っていた。


 甲板上には友人と同僚の姿がひしめいていた。遠方であるのに、青く光る輪郭ははっきりと凛々しく浮かび上がる。彼らは生前と変らずムハンマドに笑顔を向けていた。帆船はそのまま波間の白く透き通るうねりの中へと消えていった。


 ムハンマドは何故か酷い寂愁に囚われ、そのままに海を眺めていると、耳をつんざくような騒音が帰り、廃船が一隻断末魔をあげ海に崩れ落ち、それによりできた波が彼の足をすくった。


 仰向けに倒れ込む彼の手に木片が触れると、じわりと染み出した痛みを胸に感じ、やがてはっきりと形を持った悲しみが杭のように心に突き立って、二度と消えることがなかった。


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