隣室のお供
「な、聞こえるだろ」
「確かに、な」
友人に言われて壁に耳を押し付けると、確かに微かにお経が聞こえた。立地条件と家賃が合わないからおかしいとあれ程言ったのに、今更だ。
「別にさ、部屋じゃなんにも起こん無いの。でも怖いじゃんだからさ」
「何だ大家にでも言えってか、お前そういう所だけ人に頼むなよ」
昔からこういう奴だったと腹立たしく思いつつも、いつも断れない自分が嫌になる。
「いいじゃん、お前だって偶にここに泊まるつもりだろ」
それを了承と受け取って、仕方なく大家の家に向かうと途中、同じ階の住人と顔を合わせた。ついでだからと聞いてみる。
「すいません、あの部屋って」
「ああ、その部屋ね。人が死んでるんだ、わかるだろ」
そうはっきり言われると拍子抜けしてしまう。
「気持ち悪くないんですか」
「わかってて入ってるもんかと思ったよ。違うの? そうじゃなきゃ引っ越したほうが良いね」
平然とそう言われ、渋々立ち去ろうとすると、
「ああ、大家に言うつもりかい。その部屋誰も住んでないから、言っても無駄だと思うけどね」と行動を読まれ先に答えられてしまう。
そのまま彼は自分の部屋へと消えた。
だからといって訊かないわけにもいかない。
部屋を訪ねると、重い体を起こしたばかりというような動きで大家が現れ、それを問うと、やはり同じ答えが返ってくる。
「別に出ていくなら止めないけどねえ。ああ、お経、止める方法はあるよ。先に断っておくけど後悔しても知らないよ」
大家はいかにも煩わしそうな顔をする。
「取りあえず俺は止められるならお願いします」と頼んでみた。
翌日はお経が聞こえなくなったと喜んでいた友人が数日後には青い顔で俺に言う、今度は隣の部屋の壁から首の長い女が出ると。
再び詳しく聞いてみると、どうやら大家がお経のCDを部屋で消音のままかけ続けていたらしい。
「せっかく止めてやったのに、だから断っておいただろ」と、苦々しい顔で舌打ちされた。




