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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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魂髄玉


 パチンコ止めたはずなのになんでまたやってるのかって?


 仕方ないんだよ、釣りができなくなったんだ。仕事が終わってから海に直行して、ついたのは深夜一時頃だったかな。


 釣りシーズンだってのに不思議とすいていた日だった。周りで投げ釣りしてた連中があんまり根掛かりばっかりするからって帰っちまって、自分一人だけ残って落とし込みの竿でサビキを続けてた。


 波音も静かで、防波堤に寄せる水音が心地よくってさ。ついついうつらうつら船をこぎ始めてた。そしたら海鳴りが聞こえたんだ。ころろころろって変な音でね、あれと思って目を覚まして沖を眺めたんだ。綺麗だった空には薄い雲がかかってた。


 舐めるような照らされ方って表現が丁度いいと思う。強烈なもんじゃなくてさ、薄明かりなんだ。


 防波堤の波間にさ、浮きみたいな丸い玉が浮かんでて、それがてらてら白く濡れて光ってた。ああ、嫌なものをみつけた、ありゃあきっと恵比寿様じゃないかって。


 ほら、水の中の死体は腐敗ガスが溜まって膨らんで恵比寿さんみたいになるだろう。骨になる前に、波間に浮かんでお天道さまを一度拝んでから逝くんだな。だからさ、こりゃ本当に遺体なら大変だって防波堤を走って仏さんを覗こうとしたのさ。


 そしたら近寄るにつれおかしいんだな、尺がでかすぎる。波間に出てたのはほんとう頭一つでしかなかったんだ、近づくと水底に向けて得体のしれない肉が拡がってた。


 クラゲじゃないかって言うんだろう、違うんだ。ふやけた生っ白い肉の塊って言い方しか出来無いな。丸っこい肉が幾つもとっついて房になってんだ、それのひとつだけが波間から上に出てたんだな。


 こりゃ一目で見ちゃいかん類のもんだって分かってね、目を逸らそうとしたら肉の一つが目を開けた、眼なのかなんなのか良くわからないんだけどな、とにかく開いて潮がしぶいた。途端体が動かなくなる、次いで房の一つ一つが俺を見たんだ。


 「ぐえ」俺の口からガスが出た。これが磯臭い息でね、口を閉じようとしても閉じない、その内喉が何か痒くなって何か胃から登ってくるんだ、それが舌を越えて口から出て、頬を這い出すと船虫だってのが分かった。


 それっきりぶっ倒れて気が付けば朝だ。地元の漁師が苦面で俺を覗いててね、昨日浜に死体があがったんだ、なんでそんな日の夜に釣りをしたって怒るんだ、だけどそう言われてもね、知らなかったもんは仕方がない。


 あれから口から磯臭さが抜けず、体に発疹ができて熱出して、丸二日起きられなかったんだ。


 楽しくなり出した海釣りがもうできなくなっちまったよ、潮の香りが鼻に触れると蕁麻疹ができちまうのさ。

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