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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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窓影染


 私の部屋、窓のちょうど対面に千賀姉の部屋がある。


 ベッドが窓の高さと同じ位置に置いてあるのか毎夜、九時になると奥の薄明かりに照らされ、影絵のスクリーンの様に輪郭まではっきりと影が浮かぶ。


 何かを拝むように手のひらを合わせ、正座の姿で頭を何度も上げ下げする動作が続く。その影が日に日に大きくなって窓を埋めてゆくのを見て、私は恐ろしくて途中から見ていられなかった。


 隣の家の千賀姉が妙な宗教にアテらているという噂を聞いたのは年が明けて少ししてからのことだった。私は近所との付き合いはすべて親に任せきりだったので、面倒ごとが起きなければいいなどと遠くから俯瞰ふかんしているつもりでいた。


 千賀姉は私の三つ上で、ほんの数年前までは良く世話になっていた。一人っ子の私のお姉さんのような存在で、学生の頃は隣の家に遊びに行ったり、相談を聞いてもらったりしていたが、彼女が大学に進学したのを機に、疎遠となってしまっていた。


 メールでのやりとりも数箇月は続いたのだけれど、千賀姉に恋人の影ができ、かっこいい彼氏ができたと報告されてから私への興味が急速に薄れ始めたのか、三通送って一通返るか返らないかになると、私も寂しくなり、半ばこちらから喧嘩を振る形で一方的に止めてしまった。


 それから千賀姉から連絡が来たことはなかった。


 そんな彼女が大学を中退して家に引き返してきたのは去年の夏ごろだったと思う。だからといって、私にはもう相談できる親しい友達も出来ているし、今更千賀さんに姉ずらされるのもやりきれないので、付き合いを復帰させることにもならなかった。


 なにより、久しぶりに見た彼女はすっかり変わってしまっていたのだ。窓から偶然見合わせる形となった彼女の顔は、健康的でふっくらとした頬は窪み、あれ程気にしていた髪の手入れもされていないのかぼさぼさで、急速に歳をとったみたいにやつれ、まるで別人だった。


 聞けば、なにかノイローゼのようなものに罹っていて、一日の大半を暗い部屋で過ごしているのだと聞いた。私はもう思い出の中でしか昔の彼女に会えないと思って悲しくなった。


 ある日の夜、高笑いが千賀姉の部屋から発せられた。窓ガラスがビリビリと震えるほどの大声を聞いて、私は慌ててカーテンを少し開いて見ると、丁度身を翻して女性が飛び降りるところだった。


 彼女はそのまま裸足で庭を駆けずり回っている。私は恐ろしくて、ただ膝をついて呆然としていた。


 千賀姉だと思っていた女性は彼女のお母さんだった。千賀姉は彼氏に振られて去年の夏自殺したのだという。


 お母さんはそれが認められなくて、おかしくなり彼女の姿と自分の姿を演じ分けていた。そして夜になると千賀姉の恋人を呪っていたんだ。


 そんな一連の詳しい話を、千賀姉のお母さんが病院に連れられていき、騒動が終わってから千賀姉のお父さんが迷惑をかけましたと私達に話した。


 そうして最後に、「千ちゃんを殺した彼氏がね、今日やっと死んだんです、あいつ喜んどったでしょう、やっと願いが叶った」と満面に喜びを湛えて教えてくれた。


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