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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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覗小足


 四川省に出張でしばらく滞在中に起きた時のことだ。


 日の入りが近づき、ぽつぽつと街に明かりが灯り始める頃、帰り際にその時分通り裏で偶々見つけた、気に入りの飯店に入り階段裏の食卓で牛肉麺を口にしていると、階段を登る者の足が覗いた。


 立板が無く、裏から登る者の足が見えるからだ。客が少なくな時間だ、なんでもない、と普段ならば気にしないが、その歩き方が妙だったので気になった。つま先立ちして歩いてるような、よちよちとした歩き方でどこか具合でも悪いのかと按じてみるが、顔を覗くことは角度的に叶わない。


 店内には他にも客がいるが、あまり気にしている様子もないので、馴染なのかと食事に戻ろうとすると、同じ足が上から降りてきた。


 何だかとても妙な気持ちになり、登って降りてを繰り返している足を見ているうち、脚の太さに対して足がやけに小さいとようやく気がついた。


 大人の足に子供の靴があてがわれている、その上ハイヒールのような高さだ。何だあれはと立ち上がると、足そのものが見えなくなった。


 立ち上がれば持ち主の全身が望めるはず、しかし階段には誰もおあらず、ただ店の中で談笑する客の声が響くばかりだ。


 気味の悪さが胃の中に残り、食事を切り上げて店主に聞くと、あんたはきっとこれから運が上がるよと答えられた。


 何でもそれは纏足の女性の足で、かつては足が小さい程女性は男性に人気があったらしい。


 幼少の頃に足を折り曲げきつく縛り、壮絶な痛みと苦行に耐えてやっとその小足を手に入れられる、だから小足は成功の証なのだと。それを見られたあんたにはきっとその内良い伴侶か出世ができる。


 そう言われたが、なぜかあまり嬉しく思えず、その店からは疎遠になってしまった。


 数ヶ月後、思わずその体験を同僚にこぼしてしまって連れてゆくことになったが、店主が変わり階段の隙間も閉じられていて、あの足も二度と見ることは叶わなかった。


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