誘い紅葉
色鮮やかな濃淡の異なる赤や黄の葉海が、中心に流れる川を抱くように両側に広がっていた。同じ世界とは思えないような景色で、ついため息を漏らしてしまう。
川には小さな段差がいくつも重なり、小さな滝を作っている。白い飛沫の下に緩やかな流れが有り、透けて見える無色の川底を何枚かの落ち葉が彩り、自然の美しさを一層際立たせていた。
「これ、どこで撮ったんですか」
「秘密、旦那に教えたら駄目だって釘を刺されてるの」
槇島さんは懐に手を入れるとそれ焼き増ししたやつだから、欲しけりゃあげるよと嬉しそうにしていた。
私と槙島さん、それに旦那さんは写真を撮るのが趣味だ。休日は三人で山や川、海で主に自然の風景を写真の中に保存している。
とはいえ、職業が違うので休日が完全に重なり合う訳ではない。だからこそ、こうして時折、自分が探し出した絶好の景色を見せあっている。
「簡単に移動できる場所にこんな穴場、あるんですか?」
「ここはそうだね、バスと電車の時刻さえ合えば日帰りでも行けるよ」
「凄いじゃないですか、じゃなんで秘密なんですか」
「ここさ、温泉地で地元では秘密でもなんでもないんだけど、別の意味でかなり名が知れてるの」
別の意味とは何だろうかと考えても一向に答えが出てこない、それにこれだけの景色が堪能できれば、逆に名を売れそうなのに。
「高い橋と川と言えば、あれしかないでしょう」
「ああ、そうか、自殺ですか。でも危険な場所ならこれまでも二人で行ったじゃないですか」
「ここはね、一人で秋に行くと危ないんだって。私も目にするまでは本気にしていなかったけど、あれは実際凄いよ」
「凄いってどんな風に凄いんでしょう」
「写真に緩やかな流れの場所があるでしょう、川の中に幾つか岩が飛び出していて、そのへんの水流が特殊なの。日本庭園の枯山式庭園てあるでしょう」
「ああ、京都で見ました。玉砂利で模様を描いて、波紋に見立てている庭ですよね」
「あんな感じで、水の中に波紋があるんだけど、そこに落ち葉が流れ込むとね、丁度手を拱いているように見えるの。これが本当に綺麗でね、風景に飲まれるって言うのかな。だから、一人で行くと飛び降りたくなる」
「そんな事本当に、あるんですか」
「私は旦那と一緒だったから大丈夫だったけど、実際一人その週に飛び降りようとしたって」
「え、大丈夫だったんですか」
「すぐにタクシーの運転手さんが気がついて、助けに入ったから良かったんだけど、その人、ファインダーを覗き込んだら、川一面の紅葉が誘うように踊っていたんだって唸ってたって。だから実際は自殺じゃなくて、飛び降りさせられているだけなんだよきっと」
それを聞いて私は少し残念に思うものの、その場所を詳しく教えてもらうことを諦めた。




