7/100
たぬきよい
接待おわりで見送って、偶には一人で飲もうと思い、足がけ三軒梯子した。
口から出るのは愚痴ばかり、曖昧意識で見知らぬ店に、ふらつきながらも押し入った。
「月に群雲花に風、サヨナラだけが人生だ。呑んで呑まれて飲まれて飲んで、一期一会と言うともさ」
銚子片手に赤ら顔、頭にネクタイぶら下げて、今夜限りの付き合いと、見知らぬ屋内で会った顔。
気がつきゃあたりは大盛り上がり、押しも押されぬ勢いで、同好同士のお祭り騒ぎ。
「今宵の月を眺めよう、楽しい夜の宴の時を、あたしら忘れちゃならないよ」
脇の親父が一声上げて、釣られた衆は大騒ぎ、肩を組あいもつれ合い、店の暖簾を腕で押し、まろび出るよに外に出た。
途端響いた腹太鼓、大喧騒が露と消え、徳利一本残らない。
こうなりゃやけだと大声上げて、尻餅ついて大の字に。森の広場で一人酔い。
空には大きなお月さん、天井高く見下ろして、「惚れた女の顔のよに、どれだけ見ても飽きないよ」そんな言葉が締めに出た。
眠る間際の心地の良さで、求めちゃいない良い返事。森の中から太鼓が一つ、ぽんといい音で鳴り響く。