応雪乞雪
雪が降っていた。可愛らしい赤いレンガ作りの家、屋根の上にマシュマロのような雪をのせて、窓枠にはアクセサリのようにきらめくつららを吊り下げている。
玄関先の階段におしゃれなリボン赤いリボンをつけたシルクハットを頭に乗せたスノーマンが、手を開いて来客を歓迎していた。銀色の粉雪が家の中から漏れる淡い光に照らされて、きらきらと輝いた。
「このスノーグローブは兄が作ったんです」
リサは手に取った小さなドーム状のミニチュアを窓辺に置いてから言った。
「こんな家に住むのが夢なんだって」
そのまま窓の外に視線を巡らせる。外は雪だ、静寂の中暖炉の薪が燃えて音を立て、崩れる。
「だから、兄の遺品だけでもここに連れてきてあげたかった」
何かを思い返しているのか、リサは懐かしそうに目を細め、不意に窓を開いた。
外の雪が吹き込み、頬や眉、荒々しく揺れる髪に綿毛をつけた。熱で雪が溶けたのかリサの頬を水滴が滑り落ちて、床を濡らした。
彼女はおもむろに兄が作ったという遺品を掴むと、窓の外にほおり投げた。
「私、本当は兄のことが大嫌いでした。大変な時でも家族のことを全く気にしないで、いつも夢ばかり追いかけて勝手なことばかりしていた兄が。でも、たまに両親や私に行った先のお土産や、手作りの置物などを貰うと、なんだか安心してしまったんです」
彼女は頬を拭うと窓を閉め、振り返る。
「だからこう思うことにしました。ああ、兄はきっと私たちの分まで人生を楽しんでるんだって。でも、それ以上に楽しみすぎたんでしょうね。だから兄はきっと帰って来れなかった」
私はリサはきっと、嫌いだったと言いつつ兄のことが好きだったのだろう。結婚を控えて、兄との決別を果たしたかったのかもしれない。
「本当は結婚式に来て欲しかった。兄に私の幸せを見て欲しかったんです」
薪が再び暖炉の中で弾けた。炎が萎縮する、不意に煙突奥から粉雪が流れ込み部屋の中を舞った。
銀紙のような粉雪は一瞬にして吹雪の中に変えると、空気に溶けるようにして消えた。
リサの肩にはいつの間にかスノーグローブの中のスノーマンが和かな顔のまま乗っていて、その手には薄い雪に巻かれたつららが花束のように添えられていた。




