人丈生竹
「この間、親父が熱中症で倒れまして、久々に帰郷したんですわ。長い事田舎で百姓続けてましたもんで、今じゃ儲かりませんけど続けられるだけ続けたらいいと、俺も気にしちゃいなかったんですが、流石に親父も歳かな。入院もせずに済んだんで、まあわざわざ帰らんでも良かった気もするんですが」
「大変な病気じゃあなくて良かったじゃないか。一年前恋人さんが亡くなった時にも休まなかったお前が、急に休み取るから不思議に思ってたんだよな。どうだ、久々に顔見せたら喜んでただろ」
「相変わらずの渋面でしたけどね。俺も歳をとったからか親父が内心喜んでるのがわかるようになっちまいましたよ」
「そりゃ良いことだろう、それにお前休暇取ったんだってな」
「ええ、片をつけなきゃならん仕事も残ってたんで、すぐに帰るつもりだったんですがね。上司も長年休まず働いていたんだからたまには休めって、気を使ってもらっちまいまして」
「それが良い、本当に休んだほうが良いと思う。それじゃあ家族水いらず、実家でのんびりしたらいい」
「それがそうもいかんのです。実家が大変なことになっとりまして。今まで帰らなかった俺が悪いんですが」
「大変だって、親父さん元気なんだろう。たしかお袋さんはもう亡くなってるんだったか」
「ええ、もう十年も前ですがね。親爺、きっと無理してたんだろうなあ。気丈な振りして、俺に世話掛けたくないって」
「なんだ、家が荒れてたのか、男やもめにうじが湧くとも言うからなあ」
「違うんですわ、やることが出来ちまったんです。実家の裏に竹林があるんですが、そいつが広がってきまして、一部が家の畳を割って伸びてるんです」
「何? 家の中まで竹が伸びているのか、そんなじゃあ、暮らしにくくてしようがないだろうに」
「笑わんでくださいね。それが馬鹿に太い竹でして、親父が天井までそいつが伸びたら母さんが帰ってくる。だから、竹を切る訳にはいかないって言うんです」
「大丈夫なのか、お前の親父さん」
「いえね、家のお袋の墓、裏にあるんですが、そいつがどうも跡形もなくなっちまっていまして。親父に聞いたら竹林に飲まれたって。毎日通っていたのに、突然だったらしい。そしたら、畳が持ち上がり、下からお袋の声が聞こえる。畳を引き剥がしたら、筍が伸び始めてた。こりゃあってんで、毎日水をやり、話しかけてた」
「それは、親父さん相当まずいんじゃないのか」
「親父の気持ちもわかる。俺にも聞こえたんです、お袋の声。だから今度は一年前、死んじまったあいつを向うの墓から出して、こっちに撒いてやろうと思うんですわ」




