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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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泥ん子


 湿った空気が町に流れ込み、滲み出る汗にシャツが触れて背中に張り付いた。空にどんよりとした雲が立ち、稲光をああげてこちらへと流されてくる。


 私はまずいと思い足早に帰宅すると、ベランダに干していた洗濯物を取り込んだ。


 ぴしゃりとガラス戸を閉めると同時に猛烈な雨が地面を打ちつけて、戸の向こうの景色は下から湯気が吹き上げているような有様に早変わりしていた。


 良かった、なんとか間に合った、そう思って一息つくと、手に泥がついているのに気がついた。調べてみると洗濯物全てが泥で汚されている。小さな手のひら型にべったりと跡が付けられていた。


 この近所に子供なんていたかな、そう考えていると、外に黄色のレインコートと長靴が雨間の先にうっすら流れて見えた。


 ここは五階、そんなはずはないとベランダに出て下を覗き込むと、傘をさした数人が上を見上げていて目があった。


 急いで下に降り、話を聞くと、何か大きな音が地面近くで聞こえたという。部屋に戻り、すっかり晴れ上がった空の下、ベランダを覗くと、水捌けが悪いのか小さな水溜まりが出来ていて、なぜか泥の小山が作られていた。


 気持ち悪さを感じて、管理会社を問い詰めると、長く住んでいればいずれ分かることだからと、以前上の階で遊んでいて落下して亡くなった子がいた、けれどあなたの部屋とは直接関係ないから説明の必要もなかった、大丈夫だと説得された。


 今回の事を他に漏らさない事を理由に、家賃を安くしてもらっているので、まだ住んでいるけれど、雨の日になると黄色のレインコートを着込んだ泥の子供がベランダに現れる。だから私は雨の日は生地の厚いカーテンを締め切るようにしている。


 それなのに、懐かれてしまったのか雨の日となると、住宅近くの曲がり角などから唐突に抱きつかれることがある。


 間延びする「ママ」という言葉の後に触れられた瞬間、水溜まりの上で跳ねる男の子の姿が頭に浮かんだ。二度三度繰り返されると、レインコートを着た子供達の姿を見ただけで、身構えてしまう癖がついてしまった。


 会社までの距離が近いので重宝しているけれど、雨の日が来ると恐ろしくて帰れなくなったので、最近では実家に戻ることを考えている。


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