表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪壊塵芥  作者: 黒漆
63/100

泥の面


 付き合いが続いている間、私の顔は時折表情を失った。


 指摘されて気がつき、何かおかしいなと思ってそのたびに目を凝らすと、薄い膜のような顔が目の前にある。それを私はずっと目の錯覚だと考えていた。


 いつかこんな日が来ると、わかってはいた。けれど、誘われるがままにずるずると関係を続けて、遂に終わりが来てしまった。


 罪悪感を消すためなのか、それともあの男なりの誠意なのか、行為をする度、あの男は私にプレゼントを渡した。バッグや香水、財布や指輪。それにつけ加えて愛しているという言葉も。


 相手に奥さんと子供がいると知っていて付き合っていたのだから、どちらかの生活が破綻するのは目に見えていたのに。


 どこかで捨てられるのは私ではないという期待があったのかもしれない。本当に愛されているのか、そんな疑問を心に秘めて。


 想いを確かめるために体を重ねていたのか、それとも単にあの男の誘いを断れきれなかっただけなのか、今となってはどちらだったのか、自分の心が思い出せない。


 別れてくれ、そう切り出されて、少なからず今もあの男が好きという感情が私の中に残っていたのを知った。


 逢うたびに燃えていた炎は小さくなり、言葉は重み失い、愛情を感じなくなり始めていたのに、うずめ火のように奥で燃え続ける。


 わかっていた、あの男には新しい愛人ができたのだ。昨年入社した、期待のかかる若い女性がそうだ。今もきっと中身のない言葉を投げかけ、体だけを利用しているのだろう。


 新しい相手が男にできると、何度も私はあの男の奥さんに忠告をした。浮気をしていて、あなたの事が本当に好きではないのではないかと。


 しかし、彼女は知っていた。私の事も新たな愛人の事も、全て知りながら諦めていた。能面のような表情で告げられたのはお前も同じという言葉だけだった。


 あの男のすることを把握していながら何故、私はただ利用されていただけ、そう知っていたからなのか。


 心からわいた惨めな感情と嫉妬が身に泥のようにまとわりついた。芯を焦がす炎の外をじくじくと乾きかけの泥がまとわりつき、乾いた土は表情を隠す壁になる。


 ある日覗き見た鏡に、命のない人形の顔が映り込んだ。土に塗り込められた表情、これが今の私。


 不意に奥さんの顔が重なる、そうか、ずっと彼女も我慢していたんだ。


 奥さんのあの顔、人形の面にひび割れが広がっているのを見て、なんとなく、あの男の命はもう長くないのではないか、そう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ