森粉魂
鳥の声が聞こえる。風に揺れる木々のざわめきが、布を撫でつけるように優しく囁いた。
赤いもみじの落ち葉が舞っている。
小さくてまるで赤ちゃんの手のひらのような落ち葉が。
寝袋の中で微睡みながら、朝が来たのかとぼんやり考える。
その内、人の雑踏が自然と混じり合い、会話が耳をくすぐった。なん語のような理解できない不思議な言葉。
「あっあ、おあおあ、ういうい、あうー」
歓喜の声音が懐かしい、子供の姿が頭に浮かぶ。
薄目を開けて、夢から覚める。
絹ずれ特有の摩擦音が覚醒の前に鼓膜を揺らした。
夢から醒めて、拾った落ち葉を思い出す。
冬の雪原に一枚だけ落ちていた赤い落ち葉、記念にと拾ったのが悪かったのか、悪夢にうなされただけだと我に返る。
するとすぐに吹きさらしの風が私の頬を叩いた。頬をはられる衝撃が、微睡みの心地よさを吹き飛ばす。
今の季節は冬の真中、私は不時箔中だった。確りと閉じたはずの布製扉が、吹雪に剥がされ踊っていた。
その向こうに影が覆いかぶさるように立っている。寝袋にくるまったまま芋虫のように後ずさりすると、次第に視界の靄が取れ、目の焦点が対象を捉える、開いたテントの入口先に積もる不自然な雪の小山が、不意に崩れて口を塞いだ。
ぼろりと雪が崩れ、丸みを帯びて足元に転がり落ちる、それはよく見るとなにやら人のような小さな手足が付いていて、がくがくとした動きで詰め寄より、不意に崩れ雪に戻る。
なんだったんだと恐々し、暫く竦み続ける私の耳が、背から一言「あう」との声を、聞き取った。