逃亡渦中
陶芸教室で出会った彼女は天涯孤独の身だった。
話せない事情により親族を全て失ったのだと語る彼女は不思議な魅力に満ちていた。
私は稀にしか顔を出さない彼女に興味を持ち、積極的に話しかけた。最初は相手にはしてくれなかった彼女も私のあまりのしつこさに折れて、私に笑顔を見せるようにまでなってくれた。
彼女は面白いように毎度奇妙な陶器を作り上げた。底が狭く上が口が広い竜巻のような形の器だ。
関係が深いものに変わり、なぜそんな器ばかり作るんだと私が聞くと、彼女はしばらく固く口を噤んだ末に、独りごとのようにもらした。渦に魅せられているの、と。
一度硬い口の結び目が解けると言葉は勢い良く流れ出した。彼女は言う、一家心中に巻き込まれていたのだと。
海に飛び込み、水底から渦に巻き込まれる家族の姿を見たのだと語った。奇跡的に浜に打ち上げられ、助かった彼女は夢で渦の中の家族に誘われるのだと。
彼女は話を打ち明けた数日後、姿を消した。数ヶ月後、ある岬から彼女の靴と遺書が見つかった。しかし遺体は見つからないのだという。
本当に彼女は飛んだのだろうか、遺書に私の名前と自分の事は忘れてくださいという言葉を書き残して。
私は弔いに向かい、海を見ていた。彼女が飛び降りたという断崖に立って。
白い飛沫が波間を跳ねる、急流が押し寄せたのか、潮の回転が激しくなり海が口を開いた。
波間をえぐるように開いた穴を覗いていると、不意に映像が重なり合う。白い手がろくろを回しながら粘性の高い土を陶器の姿へと変えてゆく。
頬を吹き上がった飛沫が打つ、慌ただしく海鳥が騒ぎ立てた、渦の中心から白く艶かしい指が覗く、何本もの腕が突き出て渦の中心に踊っていた。
どれだけそうしていたのかわからない。私は握り拳をつくり、額から汗を流していた。
私は海に背を向けると二度と振り返らないと決めた。振り返ったら飛び込んでしまいそうだ。
彼女達はもしかしたら、あの渦の中でまだ生きているのかもしれない。




