獣屍跨ぎ
夜行バスに仮眠室が備えつけられていることをご存知ですか、運転士の勤務状況は社や運用しているバスのメーカーよって様々なのですが、例えばPAで交代という社もありますし、バスのお客様の座席最後部に仮眠室が備え付けられているものもあります。
我が社が使用しているバスは床下に仮眠室があるのですが、お客様の目につかない場所ですし、布団に飲み物もあり、空調も効いているので居心地は存外悪くはないですよ。
地面が近いので走行音は少し気になりますが、それも慣れれば耳につかなくなり、逆に眠気を及ぼすのに一役かってくれています。
けれども、あの空間は少し特殊ですよね。何というか、家の押入れの中のような様相でしょう、落ち着けなかったり、長時間耐えられない方も中にはいらっしゃるかと思います。狭所に耐えられる人間前提という作りですね。
それで変わった事、なのですが。高速道路は場所によっては夜間中野生動物が路上を横切る事があるんですが、雨などで路面状況が悪ければ当然よけられませんよね。
大概すでに轢かれていて死骸が残されていることが殆どですけれど、轢きそうになったことも多少はありますよ。
それで、これ自家用車なら床に寝ることがないから分らないだけなのかも知れませんが、寝ていても跨ぐと感じるものがあるんです。
運転中には気がつかないのですが、距離が近いからですかね。何というか、獣の息遣いというか、部屋の中が生臭くなりましてね、とても息苦しいんです。
それで交代時、顔を出せば同僚にお前息が荒いけど大丈夫か、少し獣臭いぞなんて言われまして、その上、目が充血して下瞼に深いクマが出来るんですよ、不思議でしょう。
同僚にはできるだけ跨がないようにしてくれとは言ってはいるんです。無理に避けようとしてハンドルをきり過ぎるのも危険ですし、強要は出来ないのですが、何故か自分の仮眠時は多いんですよ。
動物を轢く、死体を跨ぐなんて稀でしょう、道路整備の方に数時間中には片付けて頂けるでしょうし、滅多に起きることじゃない、それだけに一度でも経験すると二度と同じ目にはあいたくないと思うのが通常でしょう。
参りました、何か私自身が惹きつけるものでも有るんでしょうか、それが目下の悩みですね。
始まったのはいつから、ですか、そうですね最初に経験したのは、ああ、話していて思い出しました、一度何だかわからない獣を轢いたことがあるんです。
五足の真っ黒な獣で、大きくて丁度一m程の大きさだったんですが、手応えも何もなくて、お客様には急ブレーキを謝罪しました。
あれ、一体なんだったんだろうなあ、顔が、そうだ、目が真っ赤でなんだか人の顔みたいでして、なぜ忘れていたのでしょう、今思えばあれが始まりだったのかなとも思いますが、うん、考え過ぎかもしれません。




