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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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半熟の怪物


 卵の黄身を覆う薄い膜が裂けて、どろりと中が漏れ出した、そんな形の月が空の中心を塗り潰していた。


 油絵具を出鱈目にぶちまけたような妙に立体感のあるどぶ色の空に、強烈な存在感を放ちながら、かろうじて月だと判別できる黄が浮いている。


 世界から滲み出た狂気が姿を現している、そんな考えがまとわりついてロブは言葉を失っていた。


 ハロウィーンパーティーで悪乗りして暴力を振るい、菜食主義者ウィーガンの友人に野蛮だと罵られ喧嘩が始まり、ウィスキーの効いた豆乳エッグノッグを飲み比べの末に、「理由のない暴力は獣にも劣る行為だ、お前は人間として大切なものが欠けている」と言われ、「人間なんて面倒なだけだ、俺は化け物になりたかった」と答え、突進しようとし、テーブルに頭から突っ込んだ所までは覚えているが、そこから先は記憶が抜けていた。


 まるで統一性の無い、蔦のようにうねる道と、並びそびえる墓標じみた建物達、街は死んだように静かで灯り一つない。


 頭を抱えてどうにかその後を思い出そうと下を見つめていると、煉瓦の道に赤が駆け、一筋の線を描いた。


 やがてロブの体ごと地面が震え出すと道が裂け、赤が広がりバラバラに生える乱杭歯が覗いた。その巨大な口が、がなりをあげて重奏し、言葉をロブに吐きかけた。


 「トリックオアトリート」


 強烈な音と息に吹き飛ばされ、空の黄色に飲み込まれ意識ごと落とされる瞬間、ロブは腕に熱を感じていた。


 体の底から這い上がる寒さを感じて目を覚ます。気がつけばロブは腰を下ろし、街路脇の壁に背をよりかけていた。体と顔全てにべたりと黄身をつけたまま、一晩寝ていたようだ。


 ロブは悪態をつきながら家路へと着くと、家の前では喧嘩をした友人が待っていた。テーブルに突っ込んで伸びた時、重なるタイミングで衣装を着た子供達が玄関先に現れ、彼らにお菓子をあげていると、いつの間にかロブの姿が消えていたと友人が教えてくれた。


 介抱しようとしていた友人の目先で突然お前が消えたんだと。寒さと恐怖に震えるロブの腕には見たこともない生き物の、巨大で歪な歯型が残されていた。


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