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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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染面台

 何時も悪いねえ、また頼みます。いやあ、私にも良くわからんのです。何故だか髪や爪が伸びるのが早くて。


 いやまあ、言えない事ではないんです、口止めされてるわけじゃあない。ですねえ、折角だから聞いてもらえますか。


 仕事はほらこの前話した、そうです、設備工、詰まった排水管やら水周りの整備を行う仕事。トイレやキッチンシンク、洗面台の修理です。


 大概仕事は地区単位で決まってまして、ある時に担当地区内の旅館で仕事を請け負ったんですよ。それがトイレの詰りを取り除くって、ええ、嫌な仕事ではありますけどね、楽じゃあありませんし。それにああいった宿泊施設では、故意にお客が詰られる事もあるようですから、仕方ありませんね。珍しくはないんです。


 それでその問題の旅館なんですが、便器詰りの修理を終えると、ついでにって別の仕事を頼まれましてね。それが洗面台の、ええ、そっちも詰まっていました。


 普段なら規則ですから、断るのが筋なんですが依頼主から結構な金額を提示されまして、はは、人間現金を前にするとどうもね。笑ってください。


 それで修理を始める件となったんですが、ただ、妙なんですよ、その洗面台がね。廊下の角の少し入った、ええ、一見してわからないような位置にありましてね。その一角だけがなんだか古臭くて、明らかにそこだけが時間に置いていかれているような、そんな場所にぽつんと洗面台が据えられていまして。


 詰りも一筋縄では行かない状態で、結局グラインダで古い排水管を切り取って新品に付け替えようと、まあそんな話で落ち着いたんですが、これがね、切った途端にそこから赤い水が漏れ出てきましてね。


 何というか、それが生々しい赤で。これまでに見たどの錆色とも違って見えましてね。だから私、冗談交じりで女将に聞いたんですよ、こりゃあ何かあるんじゃあないですかって。


 返答は軽く返されました。女将の奴、すぐに認めましてね、実を言えばその旅館、中庭に縁切りの社がありまして、酔狂な先代が突然始めたんだそうですが、その社の裏にこの洗面台が偶々あったようで、度々蛇口から赤黒い水が出るって。


 完全に信じちゃあいませんでしたよ、だから続けていられたんです。それから月に二度三度、排水管の詰りを直してるって次第です。なに、管の中に付いた半液体の滓をこそぎとるだけの仕事なんですから、ええ、スパナで管を外してね。いやあ、でもねえ正直辞めようって考えてはいるんです。


 自分を誤魔化すのにも限度がありますよ。どうも最近体調が優れませんで。朝、起きがけに鏡を覗くと赤い目脂が、それに髪も、そうでしょう、おかしいでしょう。太さも色も違う髪がてんでばらばらに伸びるんですから。それでも何故かあの女将との縁が切れないんです、おかしな話ですよ。


 そういえば女将、あのこそぎとった滓、いつもすぐに持ち去るんですけど、何に使っているんだろうなあ。


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