川の報
鐘が夕刻を告げる、中等部の帰りに畦道を行く史郎は自転車に乗り、口笛を吹きながら遠い空を見上げた。
カラス達が橙に染め上げられた空を編隊を組み、鳴きながら山肌に沿って飛んでいた。首筋に水気をはらんだ冷ややかな風がまとわりついて、つい目を閉じ、くしゃみを一度し、足を止めてしてしまう。
「どこじゃ」
史郎の耳に聞き慣れない声が届く。
目を開いて声の元を探す、とどうだろう。先程までは何もいなかった小川に全身赤まだらの奇怪な者が水から頭だけを出して四郎を見つめていた。
「なんじゃお前は」
史郎は意識せず口に出していた。
「※※どこじゃ」
黒一色の眼を光らせ、嘴のような口をすぼめて何かを問うが、頭の部分がどうしても聞き取れない。
震える足をおしとめ、気丈に振舞おうと史郎は答える。
「知らん、俺は知らんぞ」
それを聞いてか聞かずか、頭の横からついと手が伸び山の上流を指した、「なぞれ、きかんじゃ」なぞれかなじょれか濁音で何かを言い、それはとぷんと水の中に消えた。
史郎は今のは何だと自転車から降り、小川を調べるが、元々農水用に作られたものでとても浅く、何かが到底隠れられる場所などないと気がつく。
呆然とする間も無く、急ぐ足音が耳を打ち、辺が騒々しくなった。
すぐに畦道を大勢の大人たちが走って現れた、四郎の顔を見て血相変えると「すんべが出た、お前の親爺さん、山で川に捕まって流されよった。ちいと前、川下であがったんじゃ」と言う。
史郎ははっとして尻に火がついたように走り、大人達の後について行った。
風に乗ったトンボが川面に尻をつける、と赤まだらの腕が飛び出てそれを掴み、すぐに沈んだ。
穏やかな流れに波紋が一つ生まれ、すぐに消える。
せせらぎとヒグラシの鳴き声だけが日が落ちかけた薄暗いあぜ道に響いていた。




