青への憧憬
悩んでいても仕方ない、そう思い至り、体を動かそうと暗い屋内から足を一歩踏み出し、焼き付けるような日の下に身をさらす。
目が眩んだ、頭に軽い衝撃が広がる。淡く突き抜ける蒼、高く重なり合ううろこ雲が波のようだ。動物も家も車も、何もかもが青。
まばたきの間に青にのみ込まれていた。まるで自分が水底に沈んで見上げているみたいだ。これからどうすれば良いかと私は悩んだ。
医者にかかるべきか、色がわからなくなったと正直に伝えるべきか、馴染の景色が一瞬にして遠い場所に退いてしまった。
木々の穂がコンロの青い火のようにちろちろとゆれ、飛び立つ鳥達が水をかく魚にみえる。空には油膜のようなフィルムが貼られ、青のグラデーションが揺れていた。
何か大切なことを忘れている、切欠が浮かぶと同時に波濤が心に押し寄せた。
砂浜の海岸線に打ち寄せる白波がフラッシュバックする。
私は、はたと気がついた。今日は彼の命日から丁度三年が過ぎたのだと。するとどうだろう、雨が色を流し落とすように空から地上へ色が戻ってゆく、数秒の間に世界は元の色を取り戻していた。
思えば彼は海が、そして青が好きだった。部屋の中は空や海の絵で溢れていて、サーフィンや釣りに明け暮れ、人との付き合いよりも趣味に没頭することを優先するような人だった。
私は彼のそんな奔放さに惹かれていたのだ。
彼は最後まで自由で、私の手のひらから逃れ、海の中へと連れ去れれてしまった。
私には手の届かなかった青。こうして青に染められていると彼の世界に浸れているようで、あれ程嫌いになった青が、今ではとても綺麗に見える。
自分でもまた私は足向きを本屋から花屋へと交え、彼の墓参りをすることに決めた。
なんで私を優先してくれないのと怒るたびに、「海がさ、波音が俺を呼んでるんだよ」と似合いもしないのに格好つけて、子供じみた言い訳をする彼の顔が思い浮かぶ。
私が約束を不意にするとすぐに不貞腐れる癖に。
そんな彼の遊び心が今の現象にも反映していた、墓には潮の香りと貝殻、濡れたままの砂がかかっていた。
ほころぶ顔が目に浮かぶ、気がつけば私の暗い気持ちにも波が引いて、澄みわたっていた。
そして部屋に戻ると私は再認識する。
こんな考え方は私じゃないと、青に染められ、のみ込まれる日も近いのかもしれない。




