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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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勝利の杯


 土を丁寧に削ると、地層と違った感触が移植ゴテの先から伝わった。


 人工物の表面が日にあたるまで土を除き刷毛で軽く砂を払うと、望んていた現実が顕になった。


 張り付いた余分な土を慎重に型を抜くように外し、遂に全体が明らかになる。


 堅く焼き上げられた40Cm程の台座に三日月型の大きな器がついている。


 一抱え程もある食器に発掘調査団はいた。


 恐らく祭壇に置かれた儀式用の道具だろうと推測された。あまり発達した文明ではなく、儀式的な様相を好んだ部族が過去に栄えた発掘現場だったからだ。


 勝利の美酒を味わうための杯、そんな推測が飛び交うと、調査団の一人、堀りあげた当人が、何世紀も前の部族の長と同様の喜びを味わってみたいと考えてしまった。


 これまでに費やした時間と労力がようやく報われたからか、彼の目には無骨で装飾の薄い杯が、同量の黄金よりも煌いて見えていたのだ。発見の貢献人だからと甘くされていた事も悪い方に働いた。


 杯が保管される前に、隙を見て用意したワインを注ぎこむ。するとどうだろう、その色はいっそう赤さが増したように思えた。


 真紅の宝石のような輝きの中に好奇の表情が浮かび上がる。


 彼は杯を掲げ、口へと傾けると喉を潤す、杯から喉へと流れた酒は、食道を撫でつけるように心地よく滑り、彼に充分な恍惚感を与えた。


 酔いが胃の底から駆け上がる、それと共に意識のしびれと鮮明な幻想が頭の中で弾けた。


 視点の先で何者かが必死で暴れている。その髪を自分の手が掴んだ、己の喉が咆哮をあげる。映ったのは生きたまま首を刈られる人間の姿だ、理解できない言葉の叫びと断末魔。


 甘い喜びは吹き飛び、彼は恐怖に飲み込まれていた。抱えた杯は振り上げられた両手から転がり落ち、音を立てて台座が割れる。


 直後、騒ぎを聞きつけた団員に発見された彼は、支離滅裂な言動を繰り返して要領を得られなかった。


 足元には杯の残骸が転がっている。破砕された片は変わった形に歪曲していて、台座本体は綺麗に削られたような曲線があらわになっていた、その中心には黒い眼窩がんかが覗いている、台座の中には負けた部族の長の髑髏どくろが隠されていた。


 土の上には気の抜けた彼の足元から、髑髏の眼窩へと伸びる赤い筋が残こされていた。


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