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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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銀杏香


 秋が終わろうとしていた。


 身を切るような風が吹き、曇りばかりが続く日々。


 寒空の下を街路樹から落ちた枯れ葉が、埃と共に舞っていた。


 目に違和感を感じて、瞳の中に入り込もうとする塵をコートの襟を立てて防ぐ。


 袋小路の駐車場に細かな埃や葉のかけらが風に乗り、渦を巻いていた。


 何故だろう、事務所の窓前に以前からずっと駐車され続けている軽自動車が、やけに気になった。


 同僚に放置されている理由を聞いたところ、撤去することを社長が止めているのだそうだ。


 目が奪われた理由にはすぐに気がついた、窓一面に銀杏の葉が張り付いていたからだ。


 サビが目立つ白の塗装から、まるで意図的に貼りつけたような黄色が窓を余すところなく埋めていた。


 私が近づくと、風も無いのに数枚の葉が窓から剥がれ落ちた。


 隙間の向こうには皮の破れた座椅子、スポンジのような素材が見えた。


 何か引っかかり、目を凝らすと、丸みを帯びた実が食い込んでいる、いや、素材全てがぎんなんだ。


 ぼろりとこぼれ落ちた実が座席の形をなぞるように転がってゆく。


 不意に特有の臭みが鼻をかすめた。きいとガラスを掻く音が事務所の窓側で鳴る。


 視線を上げると事務所の日除けの隙間から社長の目が覗いていた。


 降りかかる頭痛の中、私は昨年亡くなった会長の姿を思い出していた、二代目の社長と考え方の違いから良く言い合いをしていた会長の姿。


 良く秋の日に、彼は七輪を持ち、自宅近くの駐車場で銀杏の実を焼いていた。


 焼け焦げた実の独特の香り、独り好物を前にした時の笑い、剥き出しになる黄ばんだ歯。


 そう言えば会長はどのようにして亡くなったのだったか。


 踵を返すと、風に巻き上げられた銀杏の葉が私を追い越し、吹き抜ける。硬い枝に似た何本かの感触が、背広の中心を強く押した。


 私は振り返らず、家路を急いだ。後日、社長は何もなかったように私に話かけた。


 しかし、けして幻ではなかったと私は確信している。


 なぜならば、社長から発せられるものと同種の臭いが私の体からもすると同僚に指摘されたからだ。


 暫くして私から臭いは消えたらしいが、それ以来どうも、ぎんなんが苦手になってしまった。


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