れいふつりょうり
年季の入ったテーブルを前に薄汚れたソファに座り、メニューを眺めると一箇所に目が止まる。やたらと強調された文字、妙な名前の料理だな。
私が眉をひそめ、そう思っていたらリーがその意を汲んだのか話を始めた。
「この店、ゴーストが出るんだぜ、知らなかったろ」
はい? と私は生返事をしてしまう。
「ゴールデンゲートブリッジの土産物屋で売ってる、霧のカンズメしってるかい? あれみたいなもんさ」
リーは言った。「でかいポークチョップの大好きな大食漢が居てね、食うことが趣味みたいな野郎さ。そいつがある日喉に肉を詰まらせて皿に突っ伏したまま死んじまった。周りの人間にすりゃ笑い話だ、本人にしても本望だったんじゃないか、最後まで好きなもんにありついていられたんだ」大仰な手振りで空をかく。
「それから閉店後、夜になるとオンとオフ、誰もいないダイナーで電気が点いたり消えたりするんだ。するとそれに合わせて明かりがある間テーブルに影が揺れる。ご丁寧に皿とナイフの音までつけて、腹の出っ張った巨漢の影が何か懸命に食ってるんだと」
神妙な表情で首をすくめ、「噂が広がると若い奴らでそのテーブルに座る度胸だめしが始まってな、ポークチョップを頼む客も増えたんだ。そうしたらどうだ、店が繁盛を始めたら夜の異常も起きなくなっちまった。笑えるよな、だったら最初っから出てくるなよと思うんだが」と続ける。
「シャイなのかねえ。熱気が冷めて店が前の静けさを取り戻したら、またそいつが悪戯を始めたって訳さ」
リーはひとり頷いて私に説明した。
「人に忘れられると調子に乗り出す、あてにされて若い奴に店を荒らされてもかなわん、だから客に忘れられないように店主が付けたんだ。それでそのポークチョップの名前がボブチョップなのさ、これが結構旨くてね。名物なんだ、どうだい一つ頼まないか」
私はそれを注文することに決めた。
食べきれない程の量、肉が盛られて来るとは知らずに。




