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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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落下勢


 ああ、こんなとこで突っ立ってどうしたんだあんた、鍵なら開けてやるからこっち来な、暇だから聞いてやるよ。


 生肉を強烈な勢いで叩いたような嫌な音がしたってか、そらあれだ、聞かなくてもわかるだろう、六階建てアパートと自殺者、これだけで。


 こないだも午後の八時をちょいと過ぎた頃か。こうガン、ばしんって音なんだ。いや、丁度屋上の下に駐輪場の屋根がある、見えるか。


 へこんでるだろうあのサッシ、当然だわな。人間一人分の重さって結構なもんだからなあ。


 人の油ってのがまた中々取れなくてね、跡が残っちまうんだ。管理人のおっさんも迷惑そうだったな、どこからともなく勝手に入られてやられちまうんだから、それで建物の価値が変わっちまうんだからね。


 まあ、これだけ頻繁に落ちてりゃもう変わりようもないか、え、じゃあなんでそんな場所に住んでるのかって。安いからに決まってるじゃない。


 毎日聞いてて気味が悪くないか、だってか。そりゃそうはいうが、人間なんて慣れちまうもんよ、それより死ぬ間際の人間と目を合わせる方がもっと怖いね。


 俺も何度かすれ違ったことあるんだけど、凄いよ、死の直前の人の執念っていうの、そういう恐慌的な表情を見るってのは。


 なんで止めないのかって、あんた、少しぐらい話したところで止めやしないよ。特にここに来る連中ってのはそんな奴ばっかりさ。


 人生のドン詰りまで行っても生死を決めかね、いよいよ越えちゃあまずい線を踏み越えちまった連中。


 冷たいなんて言うなよ、こんな世の中下手に同情する奴の方がよっぽど質が悪い。最後まで付き合う気があるならそりゃ声かける権利があるだろうさ、だけど俺はそんな余裕ないんだ、自分のことで精一杯だからな。


 あんたも他人面してるが、俺と大して変わりゃしない、こんな話聞いて喜んでんだからな。え、何時からここに居るかって、さあ、覚えちゃいないな。


 これでも結構気に入ってるんだ、必要以上に干渉しない住民、厄介事はもうそれぞれ充分に抱えてるからな。


 それでやけに青い顔して落ち着いてないがあんた、何しにきたんだっけ、ああその表情、飛び降りに来たのか。


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