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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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土塊語り


 土塊つちくれがひび割れ、乾いた土が剥がれ、地面に落ちる。


 レディクは物を作ることが好きだった。


 彼は作品の制作以外には無関心だ。


 才能を買われ、名が売れても作品の評価は人任せだった。


 心優しく繊細な性格は周りの賢しい人間に利用される、騙されていると知ってもレディクは取り立てて事を荒らげたりもしない。


 自らに向き合う時間さえあれば幸せだと縛り続けていたからだ。


 やがて作品を通じて良き妻に逢い、結婚を遂げ子供も生まれた。


 それにより精力的になり次々に作品は生み出されていった。


 だが、彼は良いように美術商に利用され、忙しさばかりが増し、一向に生活が豊かにならない。


 日に日に厳しくなる締め付けは彼の心と体を蝕んでいた。

 恐れていた悪夢がやがて形として現れ始める。不眠と頭痛、幻覚の顕れ。


 突然沸き上がる怒りの感情、気性がその都度変わるので、傍に大好きな妻と子も置けない。


 レディクは統合失調症に悩みながらも常に芸術から目を逸らさなかった。彫刻が絵画に絵画が粘土細工に、精細さを失ったとしても芸術という枠からはけして離れなかった。


 一人工房に篭もり、妻や子供に逢いたい時は庭に出て彼らに似せた土塊を作った。美しかった彼の作品は色調や形状が崩れ、荒廃の一途を辿っている。


 それでも彼は最後まで制作を続けた、妻と子のために。庭の像は徐々に姿を変えてゆく、苦悩や苦痛を表した彼の姿へと。


 やがて無理が祟り、彼は亡くなってしまう。最後は満ち足りた表情だったという。皮肉な事に、彼が亡くなってから作品の価値が見直され、妻と子供に充分な資産を与えた。


 庭には土像が並んでいる、その殆どが彼自身の姿だ、人の形を模した土塊が繋がり、重なり合い、天を仰いで両腕をかざしている。土に埋もれかけた木板には、「心無くば私は土塊に同じ」と書かれていた。


 雨風にさらされ、徐々に体を削られてゆく土塊の群れ。彼の分身は一体残らず下の姿を取り留めてはいない。そんな土山の中、変わらず佇むものがある。


 徐々に露出してゆく顔の皺、髪の流れに至るまでの微細な造作、喜びを露わにした一人の女性と子供の姿だけが失われず、土塊の中で力強く立ち続けていた。


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